映える店の作り方

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 夜の帳がおりて久しい。  峠の入り口にあるコンビニだけが煌々と明るく、十一月を目前としたこの季節、しめやかに寒さと心寂しさが降りてきて、コンビニの前にいる若者を震えさせる。  若者は四人。車が一台もない駐車場に、これ見よがしにバイクを置いて、ホットの缶コーヒーを飲んでいる。うち二人はたばこを吸っている。  コンビニはここで最後だ。峠を越えるまで、もうひとつもない。トイレ休憩も済ませて、身を寄せ合うようにしゃがんでいる。 「なあ、腹減ったなあ。」  赤いジャンパーが言う。 「肉まんでも買えばいいじゃん。」  そう言ったのは、黄色いジャンパーだ。 「もっとがっつり食いたいんだよ。」  と赤ジャン。 「がっつり?」  と青ジャンが訊く。 「そう、がっつり。そうだ! あそこ行かねえ?」  赤ジャンが楽しそうににやりとした。 「あそこ?」  緑のジャンパーは少し不安げだ。 「きょうはパチンコで儲かったし、お前らにも奢ってやるよ。ほら、あるだろ。山間(やまあい)の、なんとかって店が。」  赤ジャンが楽しそうに、くくくく、と笑った。 「え。あそこってあそこ?」  黄色が訊く。 「こんな時間にやってるかなあ。もう十一時だぜ?」  と青ジャン。 「知らねえの? あそこ、夜しかやってねえんだぜ。」  赤ジャンは得意満面だ。  と緑のジャンパーが 「え。あそこでしょ? 無理無理無理無理。俺ぜってー行かねえし。」  と、両手を前にして振り出した。その頭を赤ジャンが叩く。 「なに言ってんだ、おめえ。もうすぐハロウィンだぞ。ハロウィンらしいこと、したくねえのか!」 「いや、特にしたくな―――」 「よし、決まり。出発しようぜ、おめえら。」  赤ジャンが言うと、みんなバイクにまたがった。緑ジャンも赤ジャンには逆らえないらしい。  バイクが音を立てて、山道を登ってゆく。彼らが言う「あそこ」を目指して、走ってゆく。  こんな山間に、深夜営業の店。十九時から四時までしかやっていない。それでも結構繁盛している。  なんでそんなことになったのか。  いまをさかのぼること半年前。まずはこの男の独白を聞いてもらおう。 ※※※※※※※※※※※※※※※※
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