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けれど、夜がまだ明ける前に、ひなたは来てくれた。なにも言わず、ぼろぼろ泣きながら、洲巻にされた私を開放してくれた。こんなにありがたいと思ったことはない。彼女は天使のようだと思った。
手足が自由になると、私は長い爪を当てないようにそっと、彼女の唇に触れた。赤くなって、血が出ている。ひなたは涙を貯めた瞳で私を見つめると、全身で抱き着いてきた。
「あなたが無事でよかった。どこも怪我してない?」
ひなたは私の胸のなかで泣いた。
「ひなた。ありがとう。そなたが無事でいることが、私にとっては無上の喜びだ。」
私たちは暗い森のなかで、しっかりと抱き合った。
「あの男、有り金全部持って、車で出てった。」
私は驚いた。
「ひなたはそれでよいのか?」
「いいのよ。」
「旦那なんだろう? あの子の父親なんだろう?」
ひなたは頷く。
そして、ちょっと言いよどんでから
「あの……秘密なんだけどね。驚かないで聞いてね。私が生まれたのは、平安時代なの。結婚だって百八回目よ。ずっと夫と子供を見送る人生で、いい加減慣れっこになっちゃった。でも、あなたとなら、ドラちゃんとなら……。」
と打ち明けた。
やはりか! 彼女は運命共同体。三億年草に間違いない! 私は歓喜に叫びだしそうだった。
「そうだ、私たちならば。共に生きて行ける。」
私はひなたの唇に、優しくキスをした。
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