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「女子よ。名をなんと申す。」
「ひなた。」
ひなたはアーモンドの大きな瞳をきらきらさせる。
「お兄さんは?」
ひゃー! おじさんって言われなかった! あっぶね、あっぶね。とか考えながらも、冷静に
「ドラキュラ伯爵だ。」
と声を響かせる。大事なところだからね。
「え。伯爵なの?!」
ひなたよ。ポイントはそこではない。
「じゃあ、ドラちゃんだね。」
一気に猫型ロボット感が増す。因みに、三百年眠ってたのに、なぜ猫型ロボットを知ってるんですか? という問いには応じない。
「ひなたよ。そなたの亭主はどこだ。」
亭主の血を吸うつもりは毛頭ないが、いま見つかって一番まずいのは、その男だろうと思った。
「一階にいるよ。お店に出てる。」
案外近いところに旦那がいることにどぎまぎしながらも、お店というのが気になった。
「なんの店だ?」
「ステーキハウス。忙しい時期には、私も赤ん坊負ぶって店でたりするんだけどね。この辺りは山間で、紅葉の時期はそれは忙しいんだけど。オフシーズンは閑古鳥なの。」
ステーキハウス! 血も滴るような塊肉が、どーんと置いてあるのだろうか。想像するだけで、よだれが……。
「よだれ出てる。」
ひなたがウェットティッシュで私の口元をぬぐった。恥ずかしい! ドラキュラとしての、伯爵としての威厳が……。
「ドラちゃん、お腹空いてるの?」
ぐうううううう、と腹が鳴った。威厳が地に落ちる。
「すまぬ。三百年も寝ていたゆえ。」
「チャーハンと冷凍餃子でよければ、すぐできるけど。」
どこまで親切なのだ、ひなたよ。
「あ。にんにく使ってない料理でお願いします。」
「おっけ。じゃあ、チキンライスでオムライスにするか。」
「かたじけない。」
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