映える店の作り方

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 ある夜のこと。すっかり電気が消えてから、ひなたのところへ旦那がやってきた。ひなたの旦那は、筋肉隆々の熊のような男である。ひなたのベッドは棺桶のすぐ前。私はのぞき窓から外をうかがった。 「ん……。」  ひなたの色っぽい声に、ドキッとする。 「たまにはいいだろ……。」  旦那の囁き声。これを見せられるのか! たまらない! 耐え難い苦難だ。 「やだ。」 「やだ?」 「そんな気分じゃないの。あっちへ行って。」  毅然としたひなたの声に勇気づけられたそのとき! 予期せぬことに、棺桶の蓋が開けられた。熊のような男が、乱暴に蓋を開けたのだ。私は恐怖のあまり、縮み上がった。 「おい。」  男は私の顎に指を掛ける。 「これ、お前さんのせいだろ。俺が何にも知らないとでも思ってるのか!」  男は手にしたガムテープで私の口を塞ぎ、手首と足首を縛り上げ、ひなたの布団でぐるぐる巻きにして、鬱蒼とした森のなかまで運んで、捨て置いてしまった。立ち去る前に、私の身体を思う存分蹴り上げるのも忘れなかった。  私は不自由な身体と、湿り気の多い落ち葉に泣いた。もしも誰も助けてくれなければ、私は一体どうなるというのだろう。  去り際のひなたの叫び声を思い出した。ひなた。なにもしてやれなかった。彼女はこの先、どうなってしまうのだろう。
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