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俺のじいちゃんはもうすぐらしい
俺のじいちゃんはもうすぐ死んでしまうらしい。だって、当の本人がそう言っていたのだから。
しばらく前から熱を出して入院し、病気が発覚したので手術をすることになったという。けれど事態は深刻らしく、じいちゃんは病室で泣きながら何度も鼻をかんでいる。濁った鼻水は腐臭を放っていた。具合が悪いせいもあってか、じいちゃんの落ち込みようは生半可ではなかった。
じいちゃんが語るには、医者は「必ず良くなりますよ」と笑顔で答えたという。けれどちらりと覗いた電子カルテの画面には、「死ぬっス、痛いっス」と英語らしき言語で書かれていたとのこと。
そして、こうもぼやいていた。「どうせダメならこのむさい医者じゃなくて、若くて美人の研修医に看取ってもらいたかった」と。
「じいちゃん、そっちはまだ元気なのに……」
俺は涙が止まらなかった。じいちゃんは小さい頃から俺の面倒を見てくれて、虫を捕まえたり魚を釣ったりと、自然の中の遊びを教えてくれたひと。俺が大学を卒業し、いっぱしの社会人になるまで、生温かい目で見守っていてくれたのだ。
俺は「じいちゃーん!」と窓の外に向かって叫んだ。
すると研究室の扉が勢いよく開き、白衣姿の女性が駆け込んできた。西崎舞さん、才色兼備の俺の同期である。
「航大さん、なにがあったのよ!」
「うう……舞さん聞いてくれないか、俺のじいちゃん、もうだめそうなんだ……」
「航大さんのおじいちゃんが!?」
ここはつくば研究学園都市にある、気象研究所の一室。俺たちは技術開発にいそしむ研究員である。俺は地熱発電開発のための地象研究を、舞さんは気象コントロールの技術基盤の研究をしている。
「そうなんだよ、元気なじいちゃんだったから120歳まで行きそうだと思ってたのに。ひそかにギネス記録狙ってたんだぜ。まだ70歳だっていうのにさ」
すると舞さんは肩を震わせて共感してくれた。
「神様ひどい! まだ人生の元取れてないじゃない!」
舞さん、同情のしかたに損得勘定が入っているよ!
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