36人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっ⋯⋯!」
不意打ちを食らって、響はうっかり声を上げた。
「なんだよ、壮平、急にはげし⋯⋯!」
「おまえが、声我慢するから」
「や、奥、だめだって!」
「響のかわいい声、聞きたいんだよ⋯⋯なあ、もう一回、蒼井先輩って呼んで」
「呼んでないよ」
「呼んだよ。おまえ、無意識なんだな、時々そう呼んでるのに⋯⋯昔みたいに呼んでくれよ、なんか興奮する」
「ヘンタイめ⋯⋯!」
マンション内の、どこかすぐ近くの部屋で鍵が開く音がした。
冷たい扉の向こう側は共用部の廊下だ。
仕事から帰宅した住人がいつ前を通ってもおかしくない。
あやしい物音が外へ漏れているのではないかと、響は気が気でない。
が、部屋の主人である蒼井はと言えば、まったく気にしていなかった。
“試合”のあとは、特にそうだ。勝っても負けても、プレー中の熱が全身に満ちたまま、響をも焼き尽くす勢いでかれを抱く。
試合前のキスは縁起が悪いーーーーーーいつ頃からか、ふたりの間に生まれたジンクス。長年、響はそれを頑なに守り、蒼井は不満に思いつつも従っていた。そして毎回、帰宅するまで辛抱しているだけえらいだろ、と言わんばかりに求めた。それが最近では、靴を脱ぐのさえ待てなくなった。
いや、待てないのは昔からだったような……?
とはいえ、それを響自身も期待しているのだから、止められるはずもない。
最初のコメントを投稿しよう!