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響は蒼井の太い首にしがみつき、肩に顔を埋めた。
片足を高く持ち上げられた格好で、ずんずんと身体を突き上げられる。
スラックスと下着を残したもう片方の足は革靴が脱げ落ち、つま先さえ床に届かず、まったく力が入らなかった。
逞しい背中、分厚い胸板、小柄とはいえ大人の男を軽々と抱える太い腕ーーーーーーすべてが敵わない。おれじゃ、どう頑張ってもこんな身体になれない。
響は意地になり、蒼井の肩に噛みついた。
「いてっ、痛いって!」
「……こっちだって、背中、痛いんだぞ!」
壁に押しつけられた背中は、上下に揺すられるたび、擦れてひりひりした。
蒼井は「ごめん」と素直に謝り、尻を掴んでいたほうの手を背中へ回した。
大きくて肉厚な手が、優しく背中を撫でる。
響はきゅんと胸が熱くなって、いっそう強く抱きついた。
「壮平……」
「気持ちいいのか、もっとしてほしい?」
「聞くな……」
響の手で口を塞がれた蒼井は、もごもごとなにか言った。
「⋯⋯なに?」
「おれ、もう⋯⋯今日はこのまま、なかでいい?」
「だめ。すぐ帰るんだから」
「泊まればいいだろ、明日は日曜日じゃないか」
「仕事があるんだよ」
「働きすぎだよ。ベッドに行く時間もないなんてさ」
「こんなところでスイッチが入ったのは、きみのくせに」
「おまえが時間ないって言うから⋯⋯そういやさ、昔、ガキに見られたことあったよな」
「そんなことあったっけ?」
「おまえの、甥っ子だよ、確か⋯⋯高校のときだ」
「ああ⋯⋯」
「あの子、おまえのこと好きだったんだぜ。おれの響にいちゃんから離れろってすごい剣幕でさ」
「ああもう、ばか、こんなときに、昔話なんかするなよ⋯⋯」
響は蒼井を黙らせようと、唇を重ねた。
「ん⋯⋯響⋯⋯」
受け身が常の響にはめずらしい積極的なキスだった。吐息を漏らしながら懸命に舌を吸うのを「かわいい」と思った瞬間、蒼井は堪えていたものを抑えきれず、ぶるっと身を震わせた。
思わず、愛おしい身体を離すまいときつく抱きしめ、腰を突き上げる。
「⋯⋯もう、ばか、きらい」
涙声で言いながら、響も身体が跳ねるのを抑えられない。
蒼井は響の身体を抱いたまま、ぐったりしたかれの頭を撫でた。
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