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どさっという重量のある物音に、夏海はびくっとした。
鍵が開く音を聞いて迎えに出たその少年は、玄関で唐突にはじまった出来事を目の当たりにし、とっさに身を隠していた。
驚いて思わず声を上げなかったことに安堵する。
細く開けたリビングの扉の陰から、夏海は恐る恐る廊下を覗いた。
やっぱり、響にいちゃん、だよな?
蒼井先輩、と呼んだ男の腕のなかで目を閉じているのは、確かに夏海の叔父だった。
年の離れた母の弟、まだ高校生だ。
人形のような白い肌と整った顔立ちの、どこか日本人離れした綺麗なお兄ちゃん。
なにより、久しぶりに会えるのを待ち望んでいた、憧れの人ーーーーーー
抱き合ったふたりは靴を脱ぐ間さえ惜しいのか、玄関に立ったまま離れようとしない。
ひそひそと互いになにかを耳打ちしては、笑っている。
そして、耳まで真っ赤に染まった顔で見つめ合うと、また口づけを交わした。
唇が重なるたび、響の左手はなにかを求めるように蒼井の背中を撫でた。
それに応えるように、蒼井はいっそう強くかれを抱きしめた。
いまにも身体がひとつに溶け合いそうだ。
蒼井が響のジャケットを脱がせ、足元に放った。
夏海が「いつかおれも行きたい」と憧れる名門校の校章、その控えめな赤い星が袖口に刺繍された制服が雑に扱われるのを見て、かれはむっとした。
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