プロローグ:従姉

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プロローグ:従姉

 現在の日本における夫婦関係のうち、社内恋愛をきっかけとした割合は約4割に及ぶらしい。つまり、10組の夫婦がいたら4組は社内恋愛から発展しているということになる。  県内最大規模を誇る大学病院においても例外ではなく、今日も様々なところで職員同士の関係が営まれていた。 「じゃあ、遠野は透析室当番だな。よろしく頼むぞ」 「はい、分かりました」  朝礼が終わると、それぞれが自分の持ち場へと向かっていく。それはオレも例外ではなく、本日のスケジュールを確認し終えると、今日の担当である透析室へと向かう準備を整える。  オレが所属している大学病院は、県内有数の規模を誇っている。使用している医療機材も最先端の物を使用し、3000人以上とも言われている職員が院内中を駆け巡って業務に当たっていた。  その中でも、臨床工学技士という職業は、巷ではそれほど有名ではない名前の職種だった。主な仕事内容は、医療機器の管理や透析の補助である。  医療機器は輸液ポンプや人工呼吸器などがあり、前者は患者に投与する点滴を一定速度に保つために使用する。手動で点滴を投与しても良いが、その場合は重力や患者の体の動きなどによってスピードが変化してしまう。そのため、輸液ポンプを使用した方が一定の速度で患者に点滴を投与することが出来る。後者は呼吸状態が思わしくない患者や、手術の後に使用することがある。患者の肺としての役割を代行する医療機器であり、その性能は極めて高い。値段も高価で、1台で数100万円は下らなかった。  透析は人体に有害な毒素を排出することが出来ない患者に対して、主に1週間に3回の割合で行うものである。患者の血液を専用の回路に回し、毒素を取り除いた血液を再び患者へと戻す作業であり、腎臓の機能を代行している物である。その回路の操作や、看護師と協力して患者に透析専用の針を刺すなど、臨床工学技士は重要な役割を果たしていた。 「あ、そうだ。透析室にいる中条さんに、コレを持って行ってくれないか? さっき電話が来て、備品を頼まれていたんだよ」 「分かりました」  先輩から両手で抱えられる程の大きさの段ボールを預かり、3階にある控え室から地下の透析室へと向かう。段ボールの中には、透析の際に使用する様々な物品が入っていた。  臨床工学技士の中でも、若手は積極的に透析業務へと回されて鍛えられることが多い。臨床工学技士になって3年目のオレも、まだまだ勉強中の身だった。
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