シンクロニシティ

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『おやすみなさいませ、ご主人様』 『おやすみ、メルローズ』    暗闇が怖くてなかなか眠りにつけなくて、瀬戸マユカは灯かりを点けたまま眠るのが癖だった。学校で机に座っていると眠くてたまらないのに、夜は明け方まで眠れない。明るいから眠れないんだよと友達が言うが、暗闇にいると自分が目を閉じているのか開けているのかわからなくなって、閉じていたつもりが開けていたということがある。そこで考え付いたのが、テレビを照明代わりにすることだ。明るすぎず暗すぎず。音もある。  闇が怖くなくなってから気付いてしまったことがある。 誰かの声がしていないと、とても淋しい。 眠れない夜にザッピングしていたら、設定のされていないチャンネルに映像が映った。この時間以外にリモコンのボタンを押しても何も映らないチャンネルだった。 『こんばんは。メルローズTVのお時間がやってまいりました。これからの23分間、どうかお付き合いください。では始まります』 「なぜ23分」 このお決まりの挨拶にいつもついツッコミをいれてしまう。 番組表にも載ってないし、いつから放映が始まった番組かもわからない。でもその時間それしか見るのがなくて見ていた。 どうやら何曜日放送、ということすら決まっていなく、ただ、夜中の2時51分からの23分番組らしいということだけ、三ヶ月追い続けてわかってきた。 二日続けて放送があるときもあれば、二週間放送なしの時もある。 放送内容もまるで決まっていないが時々思い出したようにミニコーナーがあったりする。 あるときそこで紹介された新発売のジュースがどうしても飲みたくなって番組が終わった午前3時半に家を飛び出した。 コンビニ1軒目は売り切れ。2軒目は最後の一個だった。ちょうどレジで前に並んでる人も同じジュースを持っていた。 (人気あるんだなこのジュース) 店を出てすぐ飲んでみたが味は特にどうということはない。このジュースは容器に特徴があるとメルローズTVでは言っていた。 「なるほどね」 真夜中の道を歩きながらストローでジュースを吸い込んで瀬戸は納得したような気がしていた。 それは、 ある夏の始まりの寝苦しい夜だった。 2時44分にチャンネルをたまたま押したら番組が映って、驚いていると司会者の男がこう告げた。 『いつもご覧いただき誠にありがとうございます。この度、視聴者様への感謝イベントを開催することが決定いたしました。日時、場所、そして合言葉となるものも設けてございます。参加ご希望の方はこれから10秒間画面に詳細事項を表示いたしますのでメモなど取られますようにお願いいたします。本放送は本日は予定しておりません。また次回お会いいたします。おやすみなさいませ』 「10秒!?」 録画…!ちょ、リモコン!やっ!終わっちゃう!!あっ、そだ!スマホ!スマホ! カシャッ!! なんとか画面をスマホのカメラで撮影できた。 「あー…終業式の日かぁ。一日ずれれば夏休みだったのになあ。でも休んで行っちゃおう」
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