シンクロニシティ

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イベント当日。 瀬戸は万全の準備をして終業式に行くかのように制服を着ていつもの時間に家を出た。 イベント開始は午後三時だったが、すごい行列が出来ているかもしれない。一番乗りもしてみたかった。 途中の電車で同じクラスの牧田チエミを見かける。話したことがない。 学校とは逆方向の路線、同じ駅で降りた。 改札を出ても同じ方向。 瀬戸はしばらく後ろを離れて歩いていたが、さすがに牧田も気付いて振り返った。 「瀬戸さん?もしかして、メルローズTVの…」 「そう!牧田さんも?」 「あれ見てる人いたんだー。他にも学校の子来てるかな」 「でもさ、メルローズTVの話になったこと一回もないんだよね、学校で」 「話題にするほどの番組でもないからね。朝になると忘れちゃってる」 「あたしは、なんか妙に好きなんだけどね。てゆーか、普段見てたとしてもさ、このイベントの告知は見逃してる人多そうだよね。フェイントだよー、いつもより早い時間に流すとか。しかも、いきなりで焦ってなんとか画面を写真に撮ったけど、撮れてなかったらあたしもここ来れてないもん」 「へえ、あたしは普通に記憶したけど。10秒もあったから」 牧田は理系女子だった。 会場とされた場所に着いたのは9時。イベントが催されるとも思えない殺風景な倉庫でひと気もまったくない。 「ね、なんか…怪しくない?」 牧田が不安げに言う。 「一応中に入らないで外にいよう」 平日のこんな時間に中学二年生が街をうろついていたら怪しまれるので、午後3時までここでじっと待つ。 一人じゃなくて良かったと、二人の心の中に同じ思いが芽生えた。 行列に並ぶつもりだったのでお昼ご飯もちゃんとコンビニで買ってきていた。 午後1時を過ぎたころ、少しずつ人がやってきた。 「あなたたち中学生?メルローズTVのイベントに来たの?」 30前後の派手な女性が話しかけてきた。 「あ、はい。スタッフの方ですか?」 「ちっがうわよ!暑いでしょ、中に入ってましょ」 「…」 「警戒してるのね。大丈夫よ。あたしね、メルローズTVの社長は知ってるから。彼のやりそうなことだわぁ。悪趣味な男でさ。わたしはサネ子。源氏名よ」 派手な引率者の後を付いて倉庫の中に入ると、隅の方に男が一人、ひっそり座っていた。 「えええええ、あの人まさかあたしたちより先に来てたの?負けたわあ」 瀬戸は悔しさに地団太を踏んだ。  
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