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食事はその部屋に運ばれ食べたあとは男女別に寝室に案内された。
脱出する術もなく、ただ時間は過ぎて一週間が経った。世間をいっとき騒がせた女子中学生行方不明事件もすぐに関心を持たれなくなり、報道はされなくなった。
中年サラリーマンや無職男性の失踪はハナから注目を浴びなかった。
人気女優の失踪がニュースにならないのも情報操作検証の一環なのだろう。
意図せずに他人が勝手な忖度をするケースというのが案外厄介なのだ。
ある日食事の途中にトイレに行くため一人で廊下に出た瀬戸は、途中の壁に隙間が開いているのを見つけた。こじ開けるとその先には長い階段があり、昇り切ってみるとひとつの部屋に辿りついた。
「誰だね、君は」
研究室のようで、いかにも研究者といった白髪交じりの50代と思しき男がいた。
「どうやってここへ?」
あまり驚いているようではない穏やかな顔と声には、彼女が何故ここにいるのかをただ知りたいという研究者らしい探究心のみがあった。
「あの、わたし…メルローズTVの」
精一杯可愛らしい声を出そうとしたのは、何を隠したかったのか。
「ああ、ケンジロウくんのやっているあれか。ここを使うのは久しぶりじゃないのか。地下でやってるんでしょう?」
「っそう!です!」
先読みして勝手に自己解決してくれるタイプは助かる。もう侵入者への興味は失せて机の書類を気にし始めた研究者に瀬戸はほっとして部屋を見渡した。高い天井の上半分ぐらいがガラス窓になって空だけが見える。
「ぼくは地下が苦手だから降りたことがない」
「あの窓は開くんですか?」
「え?ああ。風を入れるために上の方だけね。このへんは、開かない」
窓の外を覗きたがるセトに何かを感じたのか、研究者は付け加えた。
「ここは三階だよ」
心を読み取られまいと目をそらした先の、研究者の後ろにあるテレビでニュースが流れて、映った男の顔に瀬戸の目は釘付けになった。それに気がついた研究者もテレビを振り返り、そのまま椅子に座ってテレビに見入った。
それは殺人事件のニュース。指名手配された犯人は、瀬戸が地下室に一緒に軟禁されている男だった。
「毎日別々の殺人事件のニュースがあって、昨日の事件のことを思い出せないぐらいだね」
テレビを見たまま研究者は呟いた。
「被害者と犯人の関係者でもなければ、気にも留めないでしょうね」
冷静にそんな言葉が返せたことが、瀬戸自身少し意外でもあった。指名手配の殺人犯と寝食を共にしていたなんて実感がわかない。
「この事件は覚えているな、ケンジロウくんが言っていたから。現場のテレビがメルローズTVのチャンネルのままつきっぱなしになっていたって」
「そんなこと報道されたんですか?何か犯行に関係あるってこと?」
「ああ、いや。大学の同期の警部補がからかってきたらしい。おまえの番組見てる人間いたんだなとかなんとか。被害者が見ていたんだろうかね」
瀬戸は初めて話した日のヤマダの言葉を思い出した。
『チャンネルを足で踏んでいたみたいで、止まったところがイベント告知の画面だった』
犯行時刻とされているのは、まさにそのときだった。
あたしがテレビ画面を撮影しようと携帯電話を急いで取り出したあのとき
牧田が画面の文字を記憶しようと見つめていたとき
カスヤが女を押しのけたそのとき
そのときだったのだ。
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