食物連鎖

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食物連鎖

◆ ハンバーガーの肉は食物連鎖を想起させる。小さな生き物を中位の生き物が食べ、それを大きな生き物が食べる。そしてより大きな生き物がそれを食べるのだ。 「こうやって向かい合うとか、久々すぎ」 黒木が薄い唇を笑みの形にする。三白眼気味のつり目に、細い鼻筋、前髪を長めに残した髪型も以前と変わらない。高校時代に彼との将来を夢想し始めた頃と変わらず、魅力的だ。目付きが悪く見え個性的な容貌ではあるが、妙に自分は()かれたのだった。 俺の運命にしたい 子供はいらない 二人だけがいい 黒木さんを毎日、毎日どろどろに愛したい 黒木がΩだと知った時は嬉しかった。あれから数年、影ながら彼の動向を探偵に探らせていた。実家から都会へと住まいを移し、働き始めたタイミングで声をかけようと思っていたのだ。実の所、彼が『運命の番』かどうかはどうでも良かった。ただ彼以外に興味が持てなかったのだ。 「ですよね。なんて、財布はしゃべっていいですか?」 「ははは、高校の頃もよく飯食べたっけ…葉山はなに食べてそんなに身長伸びたんだ?」 唇が油で光っている。探偵の報告によれば彼に相手はおらず、自宅と配達先の往復の生活だそうだ。良かったと思った。彼に番がいたら、その相手を自分はどうしてしまうかわからない。 「何でしょう。わからないです。はは」 「そういう大らかな性格だからかもなぁ」 「大らかなんて一一黒木さんのクリアの方が悠々としてて」 彼は走り高跳びでは将来有望な選手だったが、ヒートが始まり高校の卒業式まで来れず、その後通信制で高校を卒業したのだ。 しまった 言わなくていい事を口走ってしまったのだ。 「そうだっけ…もう忘れた。運動なら、そうだなぁ…今も自転車はこいでるけど、、飯の(たね)だな。ははっ」 「あ、そうでしたね。筋肉痛は大丈夫ですか?」 「うん。もう慣れた。家ではマッサージしたりって感じで。会社員も大変そうだな」 「大変ですよぉ。組織だから。飲み物ありますか?」 「大丈夫。そろそろ帰るか」 「はい。あ、送ります」 「いい。てゆうか、お前どこら辺?」 店を出ると、自転車を押しながら訪ねた。夜も深まってきたが、明日は曇りなのか星はみえない。 「えーと、あ、あのビルです」 「えっ、マジ・・それだと俺の家から近いんですけど。隣のタワマンだ」 かわいい 驚き顔が猫に似ている。 「えっ、そうなんですね。度々会いましょうよ~」 「どうしようかな~」 「いいじゃないですか。ダメって言われても引きません」 「めんど」 「聞こえてますよ」 「あはは」 「ふふ」 他愛(たあい)ないやり取りと、犬歯の目立つかわいい笑顔に癒されながらも興奮を感じた。この街でのファーストコンタクトは成功といえただろう。
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