食物連鎖

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炭酸水を飲む様子を見ていると、彼の黒い瞳とこちらの瞳が一瞬合い幸せな気分になる。 黒木は高校の部活では周囲に対して言葉が足りない所があり、クールな外見とその癖のせいで後輩からの評判はまちまちだった。自分に対してもそれは同じで素っ気なかった。が、捨て猫に餌をやる彼を下校時に見かけてから、見る目が変わっていった。 本当は優しい人なんだ 猫にはあんな笑顔って 俺にも笑ってくれないだろうか 『先輩、フォームなんですけどこんな感じですか?』 『?それだと違う』 笑顔こそ最初は見られなかったが、助言を求めれば必ず誠意をもって答えてくれた。 『向いてないのかな~って思っていまして』 『まだわかんないだろ?お前は脚も長いし、体格面では向いてると思うけど』 『体格面だけですか?』 『いや、何てゆうか、はは』 『酷すぎですって』 『悪い。謝る』 『じゃあ、飯行きましょうよ』 『え、俺と?』 『はい』 『一一別にいいけど、、退屈だろ?先輩と飯なんて』 かわいい 視線を落ち着かない雰囲気でさ迷わせる。タオルで汗を拭う側から汗がまた流れ落ちた。 あの汗舐めたいなぁ 『いいじゃないですか。たまには』 『まぁ、いいか』 不思議そうに首を傾げながらも応じてくれた。一年先輩でありながらどこか純朴で可愛さがあり、それは彼が後輩からというよりも、上級生に可愛がられていた所以(ゆえん)だったのだろう。 あの事件があった後、陸上部の渡部(わたべ)という上級生から呼び出されていた。既に部活は胸糞(むなくそ)が悪く退部していたが、呼び出しに応じると共に人の滅多に通りかからない旧校舎の裏を指定したのだった。埃っぽい旧校舎は解体される予定があり、薄汚れた壁が年月を物語る。 『葉山、来たか』 『お久しぶりです』 筋肉を無駄に大きく鍛えたタイプの体型の渡部が、怒りを滲ませて立っていた。 『何か用ですか?俺は無いですけど』 『・・・テメーが邪魔しなければ、黒木は俺の番にしてやったのに、台無しにしやがって』 あの場にこの男もいたのだと、その時悟った。 『黒木は、俺が前々から世話してやってたんだよ!』 『世話?黒木さんの方が競技の実力もありましたし、一体何の話かわかりません』 時間の無駄だと立ち去ろうとすると、肩を捕まれた。 『あいつ、素直でかわいいだろ?体のラインもいい感じだし。あいつはなぁ、俺が目をかけてやって色々教えてたんだ。この部活のルール的な事も、だから、俺にアドバンテージがあってしかるべきで、俺の物に…ふぐっ!!』 言葉より先に体が動いていた。鳩尾(みぞおち)に拳を当てると、くの字に体が折れ曲がる。渡部が応戦しようとして失敗した後、数度拳を繰り出すと手を挙げた。 『ま、待て』 『待てません一一貴方は、先輩を無理矢理汚そうとした。それを、それを正当化するんですか。黒木先輩は貴方の物じゃない』 『ま一一ゲフウッ!!オゴッ!』 顔を避けてボディを殴る。傷が目立つと面倒だからだ。拳が痛くなり、手を止めて制服についた埃をはらった。 『黒木先輩は俺の物です』 『・・・』 気絶して白目をむいている相手に吐き捨てた。熱い呼吸を繰り返しながら、彼のスマホの中にあった黒木の上半身裸の隠し撮り写真を削除した。 「葉山はブラックでコーヒー飲めるんだな」 「黒木さんは飲めないんですか?」 「甘くしないと飲めない」 「ふふ、かわいくないですかぁ?」 「な…笑うなっ!」 あぁ……幸せだ この幸せを永遠にしたい 店内でも視線が気になるのか、フロアの端の席でネックカバーを弄る。その腕には擦り傷があり、頬も少しすっきりとした印象を受けた。彼を守り支配したいという気持ちが大きくなった。方法は異なるが、あの上級生と自分の希望するゴールは同じなのかもしれない。 「でも俺もキャラメルラテとか、甘いのも飲みたいって時あります」 「旨いだろ?」 「旨いです」 「だろだろ」 炭酸水の弾ける音に耳をすませ、微笑んだ。
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