3ー⑵

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「実はあの事件の真相を突き止めようとしている人たちに、色々と吹き込まれまして……話が難しすぎて信じる信じない以前の状態なんですが……」 「なるほど。私はもう日本に来て長いので、英国の話題は港に来る母国の商人たちから聞くしかないのだが、今年に入ってまた新しい噂が仲間たちから入ってきているよ。なんでも疑わしい人間が多すぎて犯人の目星がつけられないのだそうだ。スコットランドヤードは時間が経っても一向に真相が明らかにならないことに参っているらしい」 「やはりそうですか……実は明後日の夕方、安奈君のカフェで催される『港町奇譚倶楽部』の例会でこの話題を取り上げるつもりなのだそうです」 「よいのではないかな。……どれ、私も商売仲間の英国人たちから仕入れられるだけの話を仕入れておくよ」  ウィルソンがそう言って姿を消すと、流介は「やれやれ、なんだか随分と大きな騒動になってしまったな」と頭を抱えた。                 ※ 「ふうむ、それはたぶんメスメルの動物磁気理論を下敷きにした磁気治療もどきでしょうな」  流介の話を聞き終えた四辻(よつつじ)医師は、戸惑いの色を目に浮かべながら言った。  四辻医師は二十軒坂の近くに治療院を開いており、とある騒動の時に天馬の紹介で話を聞きに来たことがきっかけで知り合いになったのだった。 「メスメル?」 「中世の人物ですよ。動物磁気理論自体、怪しい理論として既にすたれてしまっています」  流介はなるほどとうなずいた。たしか布由も同じようなことを言っていた。 「布由さんは医学を学んでいると言っていましたが、本当なんでしょうか?」 「そうですね……メスメルの理論を応用していたからといって怪しい人物と決めつけるのは早い気がします。普通の西洋医学を学びつつ、過去に存在した療法も取り入れようとしているのかもしれませんし」 「ううむ、そうなると白黒つけがたくなるな……」  流介が思わずため息をついた、その時だった。 「やあ、飛田さんじゃないですか。ここにいらっしゃるとは珍しいですね」  流介と四辻医師が会話をして入る部屋にひょっこりと顔を出したのは、なんと天馬だった。 「天馬君か。ちょうどいい、安奈さんをつけ狙っている人物に関する手がかりを知れたんだが、君にも聞いてもらいたいんだ」 「手がかりですって?ぜひ聞かせて下さい」  目を輝かせて身を乗り出した伝馬に、流介は礼太郎と百彦の話をかいつまんで話した。 「ふふ、興味深い人たちがいるものですね。覚えておくことにします」
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