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「拙僧は仏の道に仕えることを仕事としていますが、ブラヴァッキー夫人という人物は件の『神智学協会』とやらを設立する際に仏教、あるいはヒンドゥー教を参考にしたと言われています。文はこの神智学協会の考えの「使えそうな部分」を抜き出したのに違いありません」  なんだか難しい話になってきたぞ、と流介は背筋を伸ばした。 「仏教やヒンドゥー教?」 「ええ。特にチベットの僧侶であるラマが如来や菩薩の化身としてこの世に転生した存在であるという考えを自身の超人化に利用したのではないでしょうか」  流介は日笠の話にすでについていけなくなっている自分を強く意識した。化身?転生?なんだかまるでわからないぞ。 「仏教のカルマや輪廻転生だけでなく文はイーストエンドで殺人を行うにあたり、ヒンドゥー教の幸運の女神であるラクシュミーの姉、アラクシュミーから霊感を授かったことにしたのかもしれません。なぜならアラクシュミーは貧困と不幸をつかさどる女神であり、イーストエンドに住む女性を狙うにはぴったりの理由だったからです」  流介は次第に前屈みになる自分に鞭をくれつつ駄目だ、もう全くわからないと心の中で音を上げていた。 「つまりそうした仏教やヒンドゥー教の教えを都合よく取り込んでいるうちに、殺人行為を超人となる絶対的な条件とする全く新しい、そして異常この上ない自分だけの教えにたどり着いたというわけです」 「殺人教……というわけですか」 「まあ、理解ができかねますがその通りです。……拙僧の推理は、ここまでと致します」  日笠は推理の披露を終えると、手を合わせ深々とお辞儀をした。 「お二方とも、大変興味深い推理をありがとうございました」  ウメは日笠とウィルソンに一礼すると、「……では最後は私ですね」と言った。例会で推理を披露する時のウメは『梁泉』にいる時のような和装ではなく、ドレスを思わせる洋装だった。
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