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 ――できれば皆が安心するような相手であってくれよ。宗吉君。  流介が探偵もどきの追跡を続けていると、宗介の脚が通りに面した比較的新しい和洋折衷家屋の前で止まった。ははあ、この建物が意中の女性の住居か仕事場だな。流介は宗吉が玄関には向かわず建物の手前でうろうろし始めたのを見ておやと思った。  ――せっかく訪ねてきたのに玄関に向かわないとは……一体全体どういうことだ?  宗吉は近くの立木に身を寄せると、驚いたことに木の陰から建物の方をうかがい始めた。  ――なんてことだ。こっそり後を追ってきた僕のみならず、宗吉君までが探偵紛いの張り込みを始めるとは。  流介は宗介の行動を危ぶむとともに、どうにもやりづらくなったぞとぼやきを漏らした。  流介も仕方なく別の木の陰に身を潜め、地面に風呂敷包みを追いて宗吉の様子を窺い始めた。すると逆の方向からやって来た人影が宗吉の前を通り過ぎ、玄関の引き戸を開けて建物の中に吸い込まれていった。 「あ、あ」  慌てて木の陰から飛びだした宗吉は玄関前に移動すると、その場で足踏みしながら引き戸に手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返した。  ――ははあ、さては今入っていった人が宗吉君の想い人だな。  流介は一瞬しか見えなかった人影を瞼の裏に思い描いた。色白で細面、年は亜蘭や安奈より五つ六つ上と言ったところか。  ――娘と言う年ではないし、よもや宗吉君、人の妻に懸想しているのではあるまいな。  やがて腹を括ったのか、宗吉が引き戸を恐る恐る開け始めたその時だった。 「君、その家に入るのはよしたまえ。命を落とすかもしれないぞ」  いきなり男性の声が飛んできたかと思うと、なんと屋敷林の茂みの中からひょろりとした洋装の男が這いだすように現れ驚いている宗吉ににじり寄っていった。 「あなたは……」 「これは失礼。僕は……まあ探偵のような物だ」  謎の人物の出現と、思いもよらぬ不穏な言葉に流介はにわかに鼓動が早まるのを覚えた。 「探偵だって?探偵がどうしてまたご婦人の周りを嗅ぎまわってるんだ」  宗吉が恋路の邪魔をするなとばかりに色をなすと、探偵を名乗る青年は「まあ、そう興奮してはいけない。詳しい話を聞きたければ僕の下宿に来たまえ」と言い、くるりと身を翻した。  取り残された宗吉はしばらしその場で足元を見つめ唸っていたが、やがて文を添えた荷物を玄関の前に置くと、元来た方向に脱兎のごとく去って行った。 「おいおい、探偵がいったい何人いるんだ。……参ったな。さすがにあの荷物や手紙を勝手に見るわけにもいかないし……ええい、ここはいったん引き上げるとするか」  流介はその場で地団太を踏むと、地面に置いた風呂敷包みをよっこらせと持ち上げた。
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