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 宗吉の恋が絡んだ一連の出来事を流介がを披露すると、天馬は「ほほう、探偵がねえ」と面白がるように身を乗り出した。 「……というわけで、布由さんという女性の身上がはっきりすれば後はよくある色恋というわけだ」 「まあ、異性を惹きつける人というのはどこにでもいるものですからね。もしかしたらその探偵とやらも、単にその女性に岡惚れしている男の一人かもしれませんよ」 「つまり命を落とすだのなんだのと言うのは、宗吉君を女性に近づけさせないための方便だということかな?」 「そう言う可能性もあるということです。だとしても何かしらの火種は残りますけどね」 「ううん、僕はそう言う男女のすったもんだに縁がないからなあ。様子見に徹する以外ないな」 「そうですね、あいにくとこいつは奇譚ってほどの話ではないかもしれません。……さて、僕はそろそろ港に戻らなければなりません。安奈に飛田さんが来てることを告げて来ますから、石水さんの話をしてあげてください」  天馬はそう言うと、戸を開けて店の奥に何やら声をかけた。 「じきに出てきますから、ここで待っていて下さい。……では、僕はこれで」  天馬が通りの向こうに去ってゆくと、入れ替わりのように店先に安奈が姿を現した。 「……あら飛田さん。今日はどんなご用向きで?」  不審な影にうろうろされてさぞ怯えているかと思いきや、安奈は流介の姿を認めるといつも通りの美少女顔でにこやかに微笑んだ。                 ※ 「そうなんですか、あの石水さんが……素敵なお話ですわね」  安奈は美しい顔を上に向けると、しばし考え込むような表情になった。 「あのう……青柳町のそのお家というのは、二階に洋風の窓がついた洒落たお宅ではありませんでした?」  唐突に安奈が問いを放ち、流介は「ん?……あ、ああ。そう言われればそんな感じだったような気もするな」と返した。 「でしたらその女性はこの一、二週間ほどあのあたりでちょっとした噂になっている女性かもしれませんわ」 「ちょっとした噂?」 「……はい。私がいつもお酒を届けているお茶屋さんの奥様がその女性をよく知ってらっしゃるようで、「最近、あそこのうちのお嬢さんがおかしいのよ」と漏らしていたんです」 「おかしい……というと?」 「ふるまいがどことなく前とは違うとか……別人ってほどではないそうですけど、顔つきもなんとなくその奥様が見慣れた柔らかい顔ではなくなったとおっしゃってました」 「ふうん、なんなのだろうね、それは……心に悩みでもあるのかな。……興味深い話をありがとう。いったん社に戻って明日にでもまた、宗吉君の所を訪ねてみることにするよ」  流介は内心、この内容では記事にはならないなと思いつつ宝来町の酒屋を後にした。
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