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2ー⑵
「――というわけで宗吉君、諦めるなり勇気を出して声をかけるなりしない限り、君の抱えているもやもやしたものは消えないのではないかな」
「そんな勇気、とても出ないですよ」
流介が薬局の帳場で萎れている宗吉に安奈から聞いた話を告げると、宗吉は「ああ、あの探偵にさえ会わなかったらなあ」と見当違いとも言えるぼやきを漏らした。
新知布由は定期的に薬を買いに来る客の一人で、初めて店に現れた時から一目惚れだったのだそうだ。どうにか世間話ができるくらい打ち解けようとあれこれ画策したものの、薬を買って帰るだけという素っ気なさに打ちひしがれる日々であった。
思い余った宗吉は御用聞き風の文章をつづった手紙を出そうと試みたり、いつも買っている柴胡湯という薬を店に来る前にこちらから届けに行こうかと思ったりしたという。それが流介の見た不審な姿だったというわけだ。
「しかし君もこの件があいまいなままでは商いに身が入らないだろう。親父さんも心配していたぞ」
「でもあの探偵とやらの言葉がどうにも胸に刺さってしまって……」
「ううむ、ではこうしよう。僕がここの雇い人になって薬を青柳町の布由さんの家まで届けに行く。そのついでに独り身なのか、将来を約束している相手はいないのか聞いてこようじゃないか」
「えっ、飛田さんが?」
流介がふと思いついた妙案を口にすると、宗吉はあっけにとられたように目を丸くした。
「僕ではつとまらないかな?」
「いえ、そんなことは……でもいいのかな」
ためらう宗吉に流介は「石水君、奇譚には前のめりなのに色恋には尻込みするようじゃ、二代目当主は務まらないと思うがな」と言った。
「はあ……」
宗吉は流介のおかしな諭し方に曖昧な返しをすると、「ふう」と重いため息をついた。
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