第二十四話 異界へ

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「半殺しまでいったのに、滅するのか躊躇(ちゅうちょ)しただろ。そん時、お前、あいつのことどう思った?」 「…………」 「殺したくないって思っただろ?」 「…………」  何も言葉が出て来ない。 「情に流されるのは自由だけど、どのみち後悔するのはお前自身だ。俺は沙希が下した判断しか動かない。守れと言えばそうするし、殺れと言えばそうする。けど、敵の妖怪を殺る覚悟のないお前には、この術を使いこなすのは無理だ」  風夜の容赦ない言葉が突き刺さる。 「なるほどな……」  祐介は風夜の言葉に納得する。 「西山さん」 「あ、はい」 「陰陽師の先輩として、これだけは言わせてもらうよ」 「?」 「陰陽師というのは、命懸けで鬼神や俺たちを脅かす妖怪を滅せなければならない。そこで、闘争の中で待ったなしの決断に迫られる時がある」  だから、と祐介は話を続ける。 「一瞬で的確な判断を下さないと、躊躇している短時間に隙を狙われる。それが油断の材料になって、真っ先に命を落とすことになる」  そう言われ、沙希は己の未熟さに痛感する。 (確かにそうだ……私は敵の妖怪を目の前にして的確な判断ができない。前にも妖怪に殺されかけたことがある)  落ち込む沙希に、祐介は言葉を紡ぐ。 「これを肝に銘じておくように」 「はい……」  妖怪との闘争は、いわば死と隣り合わせみたいなもの。 (陰陽師は、ただ妖怪を倒すだけじゃないんだ……)  沙希は陰陽師の力を持つ覚悟がどんなものかを身を持って知った。
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