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「半殺しまでいったのに、滅するのか躊躇しただろ。そん時、お前、あいつのことどう思った?」
「…………」
「殺したくないって思っただろ?」
「…………」
何も言葉が出て来ない。
「情に流されるのは自由だけど、どのみち後悔するのはお前自身だ。俺は沙希が下した判断しか動かない。守れと言えばそうするし、殺れと言えばそうする。けど、敵の妖怪を殺る覚悟のないお前には、この術を使いこなすのは無理だ」
風夜の容赦ない言葉が突き刺さる。
「なるほどな……」
祐介は風夜の言葉に納得する。
「西山さん」
「あ、はい」
「陰陽師の先輩として、これだけは言わせてもらうよ」
「?」
「陰陽師というのは、命懸けで鬼神や俺たちを脅かす妖怪を滅せなければならない。そこで、闘争の中で待ったなしの決断に迫られる時がある」
だから、と祐介は話を続ける。
「一瞬で的確な判断を下さないと、躊躇している短時間に隙を狙われる。それが油断の材料になって、真っ先に命を落とすことになる」
そう言われ、沙希は己の未熟さに痛感する。
(確かにそうだ……私は敵の妖怪を目の前にして的確な判断ができない。前にも妖怪に殺されかけたことがある)
落ち込む沙希に、祐介は言葉を紡ぐ。
「これを肝に銘じておくように」
「はい……」
妖怪との闘争は、いわば死と隣り合わせみたいなもの。
(陰陽師は、ただ妖怪を倒すだけじゃないんだ……)
沙希は陰陽師の力を持つ覚悟がどんなものかを身を持って知った。
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