第二十四話 異界へ

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 目の前には、和鋏(わばさみ)を持った年配の男性が慣れた手つきで、飴を金魚の造形を作っていた。  男性の周りに、幼い子供たちが嬉々した様子で、どんどん形になっていく金魚を鑑賞している。  その中で鑑賞している沙希も、形作られていく飴の美術的な魅力に高揚(こうよう)していた。 「ねぇ、風夜! ……あれ?」  風夜にも見てもらおうと、通って来た道を振り返る。  しかし、風夜はどこにもいなく、祐介と陽向の姿もなかった。  夢中で飴細工を見ていた沙希に気づかず、三人は先の道へ進んでしまったのだろう。 「どうしよう……はぐれちゃったよ」  左右を向いても、行き通る人たちばかりで風夜たちの姿は見つからない。 「そうだ! スマホ!」  沙希はボディバッグに入れていたスマホを取り出す。  手に取った瞬間、バックライトでついた画面が視界に入ると、沙希の抱いていた希望はあっさりと打ち砕かれた。 「嘘でしょ……」  画面の左角に、圏外という二文字が記されている。  異界だからなのか、スマホの環境地区が原因か。 「…………」  初めて来た世界に一人で迷子。  当然、周囲に知り合いという都合の良い人間はいない。  この状況を抜け出せる手立てがなく、沙希の顔は青ざめ、パニックに(おちい)る。 「と、とにかく……自力で何とかしよう」  ここで立ち尽くしても三人は見つからない。  沙希は通って来た道を再び歩き始める。
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