第二十五話 迷子

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第二十五話 迷子

「あ、あれ……?」  道を進むにつれて、賑っていた人々の飛び交う声が聞こえなくなった。  沙希は一度足を止め、周囲を見渡す。 「ここ、どこ……?」  いつの間にか並んでいた店や人通りもない場所に来てしまった。  賑やかだった場所が今では無音の場所に足がついていた。  その場所で沙希の心臓の音だけが聞こえる。 「……と、取り()えず落ち着こう」  誰もいない心細さに涙が出るのをグッと堪え、沙希は大きく深呼吸をする。  そして、整理した頭の中であることを思い出した。 「そうだ……。南雲さん、茶屋で凛さんと待ち合わせしているって言ってた」  唯一の手掛かりを思い出し、茶屋を探そうと、顔を左右に向ける。  けど、茶屋と書かれた看板の店はどこにもなかった。 「人に聞いてみるしかないか……」  人と言っても、この世界は妖怪しか存在しない。  陽向は人間に害を出す妖怪はいないとは言っていたが、そうとは限らない。  人間の沙希には、リスクを(おか)す可能性がある。 「…………」  茶屋の場所がわからない以上、誰かに聞くしか他ない。  沙希は茶屋の場所を知るため(妖怪)を探すのであった。   ✿ ✿ ✿  歩いて行くと、左右に小さな古民家が並んだ狭い路地に辿り着いた。 「誰もいないのかな……」  荒廃している民家に人の気配はなく、物音すら聞こえない。  昼間なのに、民家の屋根で影を作って薄暗かった。
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