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見渡す限り人が住む環境ではないことを沙希は理解した。
生温い風が沙希の肌を撫でる。
(何かヤバいところに来ちゃったかも……)
沙希は一か八か一つ民家に足を止め、正面に向かって大きく息を吸い込んだ。
「すみませ――ん! 誰かいませんか――!?」
叫んだ声は民家に反響するが、返事がくる様子はない。
しばらくして誰かが出て来ることがないとわかると、沙希は項垂れる。
「よぉ、そこの姉ちゃん」
次に行こうと一歩前進すると、背後から声を掛けられた。
「……!」
沙希は驚いて振り返ると、見るからにガラの悪そうな二十代くらいの青年が三人立っていた。
見た目からして狒々という妖怪だ。
「こんな危ない場所で一人ぃ?」
目的の人がいたものの、不敵な笑みを浮かべるリーダー格そうな男に、沙希はこの三人に関わってはいけないと身の危険を感じた。
「どっから来たの、君?」
「一人なら俺らと遊ぼうぜ!」
取り巻きの二人はケタケタ笑いながら沙希を取り囲んでいた。
「え、遠慮します!」
沙希は引き攣った顔で人当たりの笑みを浮かべると、くるりと男性三人に背を向けて走り出した。
「あ、逃げちゃった。鬼ごっこっスかね?」
「じゃあ、捕まえようぜ!」
三人の狒々は楽しげに笑い、沙希が通った場所を走り出した。
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