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「あたしの家族も攫われたの……」
そこへ、沙希たちの会話が耳に入ったのか、和葉がお盆に五人分のお茶を乗せて、厨房から出て来た。
「初めは、あたしの妹でね……紅葉って言うの。開店時間前に表の掃除しに行った日だった……。それで、いつまで経ってもお店に入って来なくて、心配になって表を見に行ったの。そしたら……」
和葉は涙声で話の続きをする。
「……表は倒れた箒しかなくて、妹はどこにもいなかったの……」
和葉は瞳に涙を浮かばせ、悔しそうに歯を噛み締める。
「その後、和葉さんは恋人の颯太さんと一緒に捜し回ったみたいなんですけど、途中で彼も行方不明になってしまったんです……」
凛丸は深刻な表情を浮かべ、そう説明した。
「あの時……紅葉を外に出さなければ……まだ小さいのに」
「和葉ちゃん……」
沙希は返す言葉が見つからなかった。
「大丈夫だよ」とか「きっと無事だよ」と言うのは、無責任に感じたからだ。
それから、和葉は行方不明になった二人を捜して奔走しているのだ。
「これは外部の妖怪の仕業に違いありません」
凛丸はそう断言する。
「下界のはぐれ妖怪か……」
ポツリと祐介は呟く。
「あの……その犯人の特徴とか掴めていますか?」
沙希がそう聞くと、凛丸は首を横に振る。
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