リッパー・イン・ザ・樹海

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「はぁ…早く定時ならねぇかなぁ…」 今の日本が退屈で溢れているのに比例して会社もまたトキメキが一切ない。いや、働くことにそういったものを期待することが間違っているのかもしれないが就活を頑張った末入れた所なだけにお金以外でなにか見返りが欲しいとも思ってしまう。 「ちょっと白堂くんこっち来てくれる?」 「あ、どうされました?」 勤務中になにか上司に呼ばれたら大抵は不都合なことが待っている、無視できるメンタルが欲しいと何回か思ったことすらある。 「ちょっと新人にこの仕事教えて欲しいんだよねー、俺今少し忙しいから任せてもいいかな?」 「あー…自分も今少し…いや、はい分かりました。」 断りたかったがなにか圧のようなものを感じ咄嗟に了承してしまった。 「お願いしますー」 教える部下は結構可愛い顔の女性、俺の上司への不満は少し解消された。そうだ、今思えば上司も俺を期待しているのだ。いわば彼にとって俺はまさに懐刀、ならその期待に答えてその刀を存分に振るうだけだ。こうした心意気から少しづつ俺の生活は彩っていくのだ。 後輩に仕事を教え、好感度を底上げ中(だと思う)の俺は覚えの良い彼女に安心感を覚えながらもその役目を終えた。その後はなんのイベントもなく着々と時が過ぎて行き気づけば時計の針は6時前を指していた。 「今日はイベント少なめだったなぁ」 そう心の中で毒づきながらも帰宅できるよう少しづつ書類を片付けていく。 早めに帰れそうな時に素早く帰宅出来るようにする、そんな社会人に必要なスキルを持っているスピード自慢の俺だったが残念ながら断る力は持っていなかったようだ。 「あ、白堂くんちょっと待って」 準備を進める俺に先手を打つかのように上司の古住さんがそれを制止する。 (なんだ…?残業か…出来れば避けたいが…) 訝る俺の心を読んだのかいなや、「いや、悪い話では無いんだけどね」と彼は前置きをし、間髪入れずに俺に「今から樹海にいかない?」と聞いてきた。 「え、樹海?」 樹海といえばつい最近その風景を見たぞ…と記憶を遡る。そういえば朝テレビでも報道されてたなぁ…え、今からそこに向かうのか?ありえないとは思うが変な想像が脳裏によぎる。 「いやそんな…樹海ですか?」 「ん?いや、前来たとき君そこの料理美味しいっていってなかった?」 「料理?…あ、なるほど」 居酒屋樹海、出来てからまだそこまで年数は経っていないが美味しいと評判の居酒屋、かく言う俺も確かにそこの料理が美味いと感じた記憶がある。そうか、そういえば樹海って名前だったなあそこ… 「居酒屋の方ですか」 「?それ以外無いでしょお、で君は行く?」 古住さんはなんというか、相変わらず謎の圧がある。怖いという訳ではなくなにか上手く言えない圧が。んで俺はこういうとき結局断れないんだ。 「じゃあ是非とも」 今日は遅くなるな、腕時計を2度見し誰にも気づかれないように顔をしかめた。
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