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若干のイザコザはあったものの突発的な飲み会も無事終わり、気付けば俺以外みんな酔っている。特に恵土ちゃんも酒に弱いのは普段の真面目さから意外だった。
「みなさん帰りますよー送っていきますよー」
皆酔ってはいるものの寝てたりゴネたりと面倒臭いことはしないので比較的楽に駐車場まで連れてこれる。
「えーと、古住さんが1番最初で桐崎がその次に近くて○○さんは…で最後に恵土ちゃんか」
全員を目的地まで連れていくルートを確認しエンジンをかける。定時で帰宅するつもりが樹海に行くことになり、更に同僚に犯罪の疑いを掛けて勝手に肝を冷やしてしまった。何かと慌ただしかったがこういうのは俺は嫌いじゃない。そんなことを思いながら1人づつ目的地で下ろしていく。
「えーと、土塁さんはここで合ってますよね?はい、じゃあお疲れ様ですー。」
駅前で土塁さんを下ろし、残るは恵土ちゃんだけだ。最後まで油断せずに責務を全うせねば、そう決意しながら少し分かりにくい道を右折する。
「恵土ちゃんどうせ最後だしもう家まで送っていこうか?ナビゲートしてくれるなら連れてくけど」
「え、いいんですか?じゃあお願いしますー」
きっと恵土ちゃんは明日には樹海でのこともこうして車を走らせていることも覚えてはいないだろう。それは不可抗力だし仕方の無いことだがこの感じも今日で終わりかと残念な気持ちになる。
「先輩次の曲がり角右でお願いしますー。」
「おっけー」
俺は慣れた手つきでウィンカーを上にあげた。
そのうち周りは静寂に包まれ田舎のような風景が辺りに広がっている。
「あれ、先輩道間違えてません?」
「いや、目的地に直行してるから安心してよ」
少し心配性でもあるのだろうか。ここに来て彼女の新たな側面を知れるのは素直に嬉しいことだ。…まぁそれも今日限りなのかもしれないが。
そして周りは既に暗く辺りはいつの間にか木々で囲まれていた。
「よし、ついたよー」
「うーんありがとうございました…ん?ここどこですか?」
酔いが覚めて来たのか彼女は不思議そうに見回す。
「ここは樹海だよ、しかもさっきの所とは違って本物のね樹海をハシゴしたって言うのかなこういうのは」
「…はい?」
「俺は上司の懐刀、だけどちょっと荒っぽい所もあるんだ。そういう刀は定期的に削っておかなきゃいけないよね」
静かな空に少し反響する美しく悲痛な6人目の悲鳴、身内に手を出してしまい危ないかと思うも直ぐにどうでもよくなる。
「やっぱりトキメキは自分から摂らなきゃダメだよな」
暗闇の一点を飾るかのように彼女の血の色は確かにこの空間をこの惨劇のステージを彩らせていた。
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