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「おいアイサ。助けに来てやったのに、なんでそんなに不機嫌なんだよ」
「知らないっ!」
埃まみれの床にうつ伏せる魔王。その彼の背中に偉そうに腰かけた勇者から、アイサはプイと顔を逸らす。
勇者にも腹が立つが、「邪魔された!」と思ってしまった自分自身に一番腹が立つ。
キスの寸前、乗り込んできた勇者一行に魔王はすぐさま両手を挙げた。実は彼のメイン武器は角。アイサに嫌われまいと躊躇なく折り捨てたあの角だ。
だからそれを失った今、勝ち目などあろうはずもなかった。
トップが降伏したらば、手下はそれに従うしかない。勇者とその仲間たちは抵抗の意志が無い魔物たちを容赦無く縛り上げ、床に乱雑に転がした。
当たり前のことなのに、アイサはその光景に酷く心を痛めた。
「ハァ……ま、いいや。さっさと魔王の首だけ取って帰ろう」
勇者はそういうと腰の剣を引き抜き、魔王の首筋にあてがった。魔王がハッハッと高笑いした。
「一番欲しかったものは手に入れた。もはや悔いなどない。殺せ」
清々しすぎるほどのその言葉を聞いた瞬間、アイサは勇者の剣を持つ手を掴んでいた。
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