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「……あ、あぁ、なるほど。それで勇者の弱点に関する情報を得ようというのだな。くっ、外道め!」
思っていた方向性とは少し違ったが、卑劣なことに変わりはない。女はキッと魔王を睨んだ。
「なんとでも言うがよい。しかし大人しく答えなかった時は……クックッ。言わなくても分かるだろう?」
下卑た笑みに身体の芯がゾッと凍りつく。
が、女は誇り高き剣士だ。たとえどんなに身を穢されようと、決して仲間の情報は売るまいと気を引き締めた。
「さて、愉しいショーの始まりだ」
魔王の宣言を受け、バインダーを持った一人の手下が声を発した。
「質問①。あなたは今、好きな人がいますか?」
…………うん? え、何て? 戸惑う女に、手下は語気を強めて繰り返す。
「今好きな人はいますか?」
聞き間違いではなかった。あれ、勇者の情報を抜き取られるはずだよね? これ勇者関係あるか?
チラと顔を上げると、物凄く真剣な顔をした魔王と目が合う。瞳孔はギンギン、鼻息はフンスフンスである。
いや、なんで?
「さっさと答えろ! 女ぁ!」
「えっ!? い、いいえ!」
しまった! 不意に声を張り上げた魔王の剣幕に押され、つい答えてしまった。
「……本当だろうな? 実は勇者とそういう関係だったり?」
「な、ないない! アレはただのビジネスパートナーだ!」
また反射的に否定してしまったが、今度はちゃんと勇者絡みの質問だった。つまり、敵に勇者の情報を一つ与えてしまったということ。女は自身の口の軽さを呪った。
部屋に気味の悪い沈黙が訪れる。ややあって、魔王が口を開いた。
「手下。反応は?」
「ありません。本当のようです」
「……そうか」
魔王がホッと息を吐いた。うぇーい、と手下たちがにわかに色めき立つ。
え、何これ。どういう状況? というか、なんか恥ずかしいんだけど……。
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