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女の指摘に、気まずそうに目を逸らす魔王(そもそもなぜバレてないと思ったのだろうか)。地獄のような沈黙の後、彼は腹を括ったように「手下ぁ! 次の質問だ!」と怒鳴った。
「はいぃっ! で、では質問⑥。足の臭い男子とは付き合えますか?」
「え、無理無理。普通に嫌。『いいえ』で」
「手下ぁ! 何か拭くものと、ニオイを抑えられるタイプの靴下持ってこい!」
「あーあと、家事を押し付けてくるタイプの男も苦手だ」
「エプロン持ってこい! アクアパッツァは俺が作る!」
「命令口調の男もちょっとなー」
「持ってきてくださいお願いしますぅ!」
目の前で繰り広げられるてんやわんやを眺めながら、女は呟く。
「……一体なんだ、これは」
小娘にいいように踊らされる魔王。女に好かれようと必死になるその無様な姿を見て、滑稽だと嘲笑う気持ちも確かにある。
だけど今、女の心の大半を占める感情はそれではなかった。
「めっちゃドキドキするんだが?」
女の心を支配したのは「高揚感」。しかも、ただの高揚感ではない。
魔物どもを斬り捨てたり、良い道具を手に入れたり。そういった時に感じるものとは違う「温かさ」を伴った高揚感。
一体なんだ、これは。
もう一度心の中で呟くが、彼女自身、この感情の正体に心当たりがないわけではなかった。
しかし同時に認めるわけにもいかなかった。勇者の仲間の誇り高き女剣士が、あろうことか魔王にそんな感情を抱くなど……。
女としては虚を衝かれたような思いだったが、こうなるのも無理からぬことだった。
男勝りの性格と顔立ち。幼少期から勇者お付きの剣士になる存在として育てられ、生傷が絶えない生活を送ってきた。
そんな彼女を「女」として扱う者など誰一人としていなかった。
今日、魔王に会うまで。
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