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「おい女。ど、どうだ? まだ臭いか?」
いつのまにか五本指ソックスを装着した魔王が、恐る恐るといった様子で尋ねてくる。
「別に……最初から、臭くなかったけど」
「そ、そうか。時に、この尋問が終わったらおにぎりを握ろうと思うのだが」
「あぁ、アクアパッツァは無理だったんだな」
「うるさい……それで、その、お前も一緒に食べるか?」
「……毒でも盛るつもり?」
「そんなわけないだろ! お前は俺の大切な、おっ……お客さん、なんだから」
「そ、そう。なら、食べてあげてもいいけど」
なにこれ、顔あっつ。
女は手で顔をパタパタと扇ぐ。初めて覚える感情に、完全に浮き足立っている。
魔王もまた女と同じように、真っ赤な上にニヤケを抑えきれない顔を必死で繕っている。そんなだらしのない仕草でさえ、なぜか女は目を離せない。
違う違う違う! そんなことあるわけっ……!
「ごほんっ! あの、そろそろ質問の続きをしても?」
痺れを切らした手下の咳払いで、女は魔王と二人の世界から連れ戻された。もどかしさと悔しさの狭間で心が迷子になる。
「あ、あぁ。質問を続けろ……続けてください」
兎にも角にも、再び尋問は再開されるようだ。
「質問⑦。子魔物は何人欲しいですか?」
「コマモノ?」
「人間で言うところの、子供というやつだな」
「なっ! そ、それだとっ……まるで、私が魔物と子を成すみたいな……」
「いや! ふ、深い意味は無いのだ! 別に、こちらサイドにお前と子を成したい者がいるとか……」
「アイサだ」
「え?」
「お前じゃなくて、アイサだ」
私は一体何をしているのだろう。魔物に、それもその王に、自ら名を名乗り呼んでもらおうなどと……。
アイサは自分自身に呆れ果てる。それでも胸の奥で暴れ狂う感情の波はもう、抑えることなどできそうになかった。
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