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「そうか、すまん……それでア、アイサは、何人の子が欲しいのだ?」
「……9人」
「おお……多いのだな」
「野球チーム、作りたいから」
「そうか」
「お、お前は!」
「うん?」
「お前は……何人欲しいんだ? ちなみに」
「俺は……俺も、9人は欲しいな。野球好きだし」
「そ、そうなのか」
「あ、あぁ。そうなのだ」
9人生むとしたら名前はどうしよう。長男はやっぱりイチローだろうか。あ、でもイチローって確か次男だったな。
……って違う違う! なに魔王との子を生む前提で考えているんだ! 私が、魔王との、子を……。
アイサ自身は気付いていないが、この時すでに彼女の心は魔王を受け入れていた。
それを恋心だと認められなかったのはただ、薄氷のような理性が「そんなことあってはならない!」と意固地になっていただけのことで、それも魔王の方から軽く突けば容易く破られてしまう状態だった。
しかし肝心の魔王自身はそのことにまるで気付かず、未だ「今のキモくなかったかな? 大丈夫かな?」なんて考えで立ち止まっていた。
要するに、男子中学生だった。
「あーもう! まどろっこしい!」
そんな状況を見るに見かねた手下の一人が叫んだ。アイサと魔王の肩がビクッと跳ねる。
「質問⑧!」と手下は言った。
「アイサさんは今、好きな人がいますか?」
それは最初に「いいえ」と回答し、済んだはずの質問だった。だからアイサはそう答える。
「さっきも言っただろう。答えは『いいえ』だ」
ビィーッ!とブザーのような音が部屋に響いた。発生源はアイサの隣に設置された機械の箱。
嘘発見器が、この日初めて役目を果たした。
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