ピンクの中の黒い点

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ピンクの中の黒い点

 ハナちゃんはスイカを切ってもらって食べている。  暑くなるとよくおやつに出てくるこのスイカというもの。  ピンク色で、綺麗で、甘くて、でも、その中には黒い星が散っている。  もしかしたら、ピンクの宇宙なのかもしれないと思いながらスイカを食べる。  ハナちゃんはいつの間にかピンクの宇宙を漂っている。    黒い涙型の星が空に浮かんでいる。  このスイカの宇宙では星は輝かずに黒く浮かんでいるのだ。  ピンクの向こうから、小さなスイカよりも薄いピンクのウサギがハナちゃんに向かって歩いてくる。 「すっかり、スイカ色になっちゃったよ。元々白かったのにさ。」  ウサギはハナちゃんに向かって、不満そうに話しかけてきた。 「え?ピンクのウサギさんも可愛いけどなあ。」 「そうかい?でも、眼はスイカの星の形になっちゃったしさ。ウサギの目は本当は赤いのに。」 「え?でも黒いお目目のウサギさんも可愛いよ?」 「ハナちゃんもピンクになってるよ?それにお目目も涙型で真っ黒になっているけど。」  ハナちゃんが自分をよく見ると、ウサギさんと同じようにスイカよりも少し薄いピンク色に染まっていた。目も白目がなくて真っ黒だ。なんだか不気味だ。 「大丈夫だよ。スイカの星にいるとみんなこうなっちゃうんだから。」  遠くからピンク色になったゾウが近付いて来た。ぞうもスイカよりも少し薄いピンク色に染まって、眼はあのキラキラした黒い眼ではなく、涙型をしたただの真っ黒い眼になっている。  ハナちゃんは怖くなって泣き出した。 「ワ~ン。これじゃ、ママがハナちゃんを見ても気が付かないよ~。みんな同じ色で同じ目をしているんだもの。」   「ハナちゃん?ハナちゃん。起きて。眠るなら、お顔とおてて洗って、お布団で寝て頂戴な。」  お義母さんの声で目を覚ました。  ハナちゃんはスイカを食べながらうとうとと居眠りをしていたのだった。  手も顔もスイカの汁でべたべただ。  ハナちゃんは、 「うわぁ、ピンクになる前に洗わなきゃ。」  と、大慌てで洗面所に走って行った。 「スイカももう、終わりかしらね。この夏は暑かったからたくさん食べたわねぇ。」  夏の終わりの縁側には、まだ夏のなごりのハイビスカスが花をつけている。  蝉の声は毎年の事ながらいつの間にか溶けるように聞こえなくなって、縁側を開け放っておけば、心地よい風が通り抜ける時期になっていた。  ハナちゃんの夏の冒険も終わりを告げて、今度は梨やリンゴの夢を見るようになるのだろうか。  とにかく、ピンクの宇宙には、もう出かけたくないと思うハナちゃんだった。   【了】
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