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手首を縛っていたスカーフが外されたのだ。
『これでわかったか? 自分がしていることが』
震えながらそっと彼を見ると、彼はにこりともせず、冷ややかな瞳で私を見下ろし、フンと鼻を鳴らした。
『物欲しそうな顔をして、あんなところにいたら、こうなるんだぞ』
私の顎を掴んでそう言うと、彼はベッドから降りた。
『俺はシャワーを浴びる。その間に帰れ』
寝室を出る彼の、背中に描かれた龍の胴体を見つめ、震える体で起き上がった。
床に落ちたバッグとコートを拾うと、愚かな私をせせら笑うように、ベッドサイドの向こうにはキラキラ輝く夜景が滲んで見えた。
ラブストーリーのような夢なんて、現実には起きない。
私、森村小恋二十四歳は、北関東の田舎町に生まれ、地元の大学に進んでそのまま町にある農協に就職したという、とりたてて特徴のない普通で地味な女子だ。
身長一五七センチやや痩せ気味、髪はゆるくふわっとしたボブ。目も鼻も口も大きすぎず小さすぎず、祖母は可愛いと褒めてくれるが、第三者的にはごく普通。
わかっている。
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