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エレベーターの箱から出ると、廊下にも仮装した人々であふれている。時折向けられる好奇の視線に気付かぬふりをして、緊張を悟られないようにまっすぐ前を向いて歩く。
相手は慎重に選ばなきゃ。
目的の店に入り、とりあえずバーカウンターへと向かう。喉を潤すアルコールの力を借りて、来るべき時を待つのだ。
「こちらは本日の特別メニューでございます」
白衣に血が付いた科学者のゾンビになったバーテンが、差し出す黒いメニューの紙には、どんな味なのか想像つかない怪しげなネーミングが並んでいる。
ヴァンパイアの涙、伯爵令嬢の秘密――。
そのなかで、ふと目を惹いた名前を指さした。
「これを」
私が選んだのは、 "シンデレラの媚薬"
「かしこまりました」
本物だったらいいのにと思いながら目をつぶり、大きく息を吸う。
ここまでは予定通りだ。
耳につけたガラスのかぼちゃを指先で転がしながら、暴れる心臓に落ち着いてと言い聞かせる。
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