◆止められない

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「まぁ、そう言わず。いれますよぉ」  って、なにやってるんだろう、私。  帰ればいいのに。専務がいいよって言うんだから。  専務はウォーキングクローゼットに向かい、私はといえば、そそくさとキッチンに戻り、コーヒーをセットしはじめた。  耳を澄ますと、バスルームから水音が聞こえる。  どうやらシャワーを浴びているらしい。  コーヒーはどうしよう、出てくるのを待ったほうがいいの?  それともコーヒーを落として帰ったほうがいいのかなとアタフタしているうちに、バスローブを着た龍崎専務がリビングに来た。  少しはだけた襟から割れた腹筋が見えて、目が泳いでしまう。  ソファーに腰を下ろし、新聞を広げる専務を見ていると、居ても立っても居られない気持ちになってくる。  ホテルで会ったこと、どうしてなにも言わないの?  まったく感心がないのだろうか? 私が男の人とふたりでいたというのに? 「どうぞ」 「サンキュー」  顔を上げた龍崎専務はさっそくカップに手を伸ばす。  声色も仕草もいつもの調子だ。 「ご一緒していた方たちと打ち合わせだったんですか?」
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