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【桐壺の章】第1話プロローグ
いつの帝の御代のことだったでしょう。
大勢の妃たちがいる中で、帝の寵愛を一身に受けた低い身分の更衣がおりました。
その寵愛は世間でも噂されるほどで、「大変な御寵愛ぶりだ。唐の国でもこのようなことが発端で、世が乱れた前例がある。かの更衣はまるで楊貴妃のようではないか」と公家たちは囁き合い、帝の振る舞いに眉を顰めておりました。
更衣の父は大納言でしたが既に亡くなっており、頼りになる後ろ盾がいないため、なにかあった時は、やはり不安定な立場にいたのです。
帝の寵愛を唯一の頼りにしていた更衣でしたが、一方で、その寵愛故に、かえって辛い思いもしておりました。
なにしろ、帝の内裏には身分高く美しい妃たちが、帝の寵愛を独占する更衣を目障りに思い蔑み妬んでいる者ばかりだったのです。
しかし、妃たちを責める事は出来ません。
帝の更衣に対する寵愛は目に余るものがあったのです。
更衣の局は淑景舎の一局である「桐壺」にありました。
「桐壺」は、帝の住まう清涼殿から最も遠く離れた場所に
あり、帝は足繫く桐壺の更衣の局に通っていることは、数多の妃たちの局の前を素通りすることに他なりません。
まるで見せつけるかのような桐壺の更衣への寵愛ぶりに他の妃たちは益々桐壺の更衣に憎悪の炎を燃やし、それは桐壺の更衣自身に降りかかりました。後宮中の妃たちから疎まれ、粗探しをされては陰で嘲笑われる桐壺の更衣。その嫌がらせは徐々に拡大していき、桐壺の更衣は常に心労が尽きない日々を送っておりました。
その心労から桐壺の更衣は窶れていく一方でありましたが、却って、桐壺の更衣の美しさを引き立てておりました。
儚くも美しい桐壺の更衣の姿を見た帝は、桐壺の更衣を一掃不憫に思われ、世間の誹りも我関せずといった態度で、より桐壺の更衣を偏愛したのであります。
そんななか、桐壺の更衣に世にも美しい皇子が産まれました。帝は大層喜び、その皇子を格別に愛しんだのです。
帝には弘徽殿の女御との間に第一皇子が誕生しておりました。
この第一皇子は、右大臣という強い後ろ盾があり、次期東宮間違いなしと、世間でも見られていたのです。ですが、桐壺の更衣母子への溺愛ぶりに「もしや、第二皇子が東宮に立たれるのではないか」と囁かれ、これには弘徽殿の女御も疑心暗鬼になられるほどでした。
◇◇◇◇◇
(お知らせ)
源氏物語の現代語訳を自分なりに勝手に解釈したものです。
所々におかしな文章になっていると思いますが御了承ください。
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