契約の成立

1/1
576人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ

契約の成立

「―――内容を確認して問題がなければ、ここにサインを」 机を挟んで、私は再び早川社長と向かい合っていた。 机の上に置かれているのは1組の書類。 私と彼の“契約結婚”についての条件が記された契約書だ。 契約結婚を受ける選択をして、今日はその契約を正式に交わす日。 私は契約書を手に取って上から下まで目を通す。 契約書らしくお堅い文章で書かれているけれど、内容はこの間早川社長が口頭で説明してくれたのとほぼ同じ。 他には、婚姻中・離婚後問わず早川社長の秘密については一切の口外を禁ずること―――秘密保持の項目が追加されていた。 それともう1つ、“1ヶ月間のお試し期間を設けること” これに関しては、先ほど早川社長から説明があった。 私たちは、お互いがどういう人間なのかもよく分かっていない。 あくまで契約の関係とはいえ、実際に生活を共にする上で何か耐え難い事柄が発生した場合。 話し合いの上、1ヶ月の間ならこの契約を無効にすることができるというものだ。 つまり、長めのクーリングオフみたいなものというか。 私的にもその方が安心できるから異論はない。 婚姻届を提出するのは、その1ヶ月が経過してからということになった。 ペンを取り、契約書にサインを書く。 押印までを済ませたそれを、早川社長に差し出して。 今ここに契約は成立した。 「うん、確かに。 ……それじゃあこれからどうぞよろしく」 「こちらこそ、よろしくお願いします……!」 まるで全てのものを持ち合わせているようで、住む世界が違うとばかり思っていた人。 そんな人の世界に、私は今日から飛び込んでいく。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!