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契約の成立
「―――内容を確認して問題がなければ、ここにサインを」
机を挟んで、私は再び早川社長と向かい合っていた。
机の上に置かれているのは1組の書類。
私と彼の“契約結婚”についての条件が記された契約書だ。
契約結婚を受ける選択をして、今日はその契約を正式に交わす日。
私は契約書を手に取って上から下まで目を通す。
契約書らしくお堅い文章で書かれているけれど、内容はこの間早川社長が口頭で説明してくれたのとほぼ同じ。
他には、婚姻中・離婚後問わず早川社長の秘密については一切の口外を禁ずること―――秘密保持の項目が追加されていた。
それともう1つ、“1ヶ月間のお試し期間を設けること”
これに関しては、先ほど早川社長から説明があった。
私たちは、お互いがどういう人間なのかもよく分かっていない。
あくまで契約の関係とはいえ、実際に生活を共にする上で何か耐え難い事柄が発生した場合。
話し合いの上、1ヶ月の間ならこの契約を無効にすることができるというものだ。
つまり、長めのクーリングオフみたいなものというか。
私的にもその方が安心できるから異論はない。
婚姻届を提出するのは、その1ヶ月が経過してからということになった。
ペンを取り、契約書にサインを書く。
押印までを済ませたそれを、早川社長に差し出して。
今ここに契約は成立した。
「うん、確かに。
……それじゃあこれからどうぞよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします……!」
まるで全てのものを持ち合わせているようで、住む世界が違うとばかり思っていた人。
そんな人の世界に、私は今日から飛び込んでいく。
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