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「落ち着くなぁ。じゃないわよ」
「え?」
眺めていた空から視線を下ろすと、サラが腕を組んでこちらを見ていた。
「あれ。サラさん、早いですね。もう支度は終わったんですか?」
「それはこっちのセリフよ。不自然な歩き方をしている怪しいヤツを見つけたからちょっと見に来ただけよ。」とため息混じりにサラが言う。
彼女のこの刺々しい言い回しは年齢からくるモノなのか、はたまた性格的なモノなのかはまだわからないが不思議と悪意は感じられない。
しかし、いつから見られていたんだろう。少し恥ずかしくなり笑って誤魔化す。
「怪しいヤツって、、、。やっぱり歩き方変でした?」
「かなり、変っ。」
「すみません。」
「別に、謝んなくて良いわよ。」
「それよりアンタ、装備は?」
「装備ですか?」
「アンタ、そんな軽装で行くつもりじゃないでしょうね?」
「ギクッ」
思わず声に出ていた。
僕は城を出た時から変わらず、露店を歩く人達と同じ様な軽装だった。特段、装備という装備は身に付けてはいなかった。
「いや、ギクッ。じゃないわよ。本当に用意していないわけ?」
完全に失念していた。
そういえば、浄化の塔を目指し旅に出ることが決まった際に、「まずは装備を整えなさい」シャルナールさんに言われていた事を思い出した。
「・・・・・・すみません。」
「だから、謝んなくていいわよ。」
サラは、1つ大きなため息を付くと「しょうがないわねぇ。付いてきなさい。」と呆れた様に歩き出した。
「えっ。どこに行くんですか?」
「決まってるじゃない。アンタの装備を見に行くのよ。まだ時間はあるでしょ。」
サラはクルッと反転すると黙って進んで行く。振り返る際、なびく金色の髪は太陽の光でよりいっそう輝いて見えた。
「早くしなさいよ。」
「あ、すみません。」
「だから、謝んなくて良いわよっ」
それでも振り向く事無く黙々と進んで行くサラの後を急いで追う。
「サラさんって優しいですね。」
「は?バカにしてんの?」
横目で、チラりと睨みつける。
「い、いや。バカになんかして無いですよ。ほら、僕の目の時だって、、。」
「あれは、ワタシが無知だっただけよ。知っていたらあんな配慮の欠けた事は言わないわ。」
「じゃあ、やっぱり優しいですね。」
語るに落ちるとはこの事か。
自ら優しいと公言している様な発言にサラも気付いたのか、頬が紅くなっている様に感じる。
まぁ、ほとんど後ろ姿しか見えないのだが。
いくつかの路地を通った所でお目当ての鍛冶屋を見つけたらしく「ここよっ。」と立ち止まる。
店の看板には、剣と鎧の模型が取り付けされていて、如何にも装備を扱っているお店という感じだった。ただ、建物自体はかなり古く外装も何箇所か剥がれている状態で、良く言えば老舗何だろうと思った。
そんな僕の表情を見てか、「店はこんなだけど、中はちゃんとしてたわよ。・・・・たしか。」と少し自信無さ気にサラが言った。
ギィ。木製のドアを開け中に入ると、長剣に短剣、防具などが綺麗に陳列されていた。外見とのギャップに驚かされた。
「凄い、、、、。」
こういった鍛冶屋に入るのは初めてだったのでどこから見れば良いか分からず、かなり挙動不審に店内を見て廻る事になった。
「やっぱり戦いなど実用性を考えたら長剣かなぁ」
自分の身の丈に近い剣を眺め、実際に装備しているところを想像する。
(これは、アレだ。剣に持たれてるというやつだな)
と早々に何かを悟ってしまった。
「アンタこれじゃ。剣を持つと言うより剣に持たれてる様なもんね。」と笑いを堪えながらより具体的にツッコミがサラから入った。
「ですよねぇ。」
なかなか決められず店内をウロウロしていると、「アンタには、短剣が良いと思うわよ」と何処からかサラが短剣を持って僕に手渡した。全長50センチ程の扱いやすそうな一振りで、なんだか妙にしっくりと身体に馴染んだ。
「これ、良いですね。剣としての重さはしっかり有りますが、僕でもギリギリ片手で扱えそうです。」
しかも値段も長剣と比べかなり安価なのも魅力的だった。
「これにします!」
「そっ。好きにしたら。、、なら後は防具ね。」
採用された事が嬉しかったのか、若干の笑みを浮べたのを見逃さなかった。
防具に関しては。自分の体格に合わせて選ばなければいけないのでいくつか試着させてもらった。
自慢では無いが力と体力には全く自信が無いので、フル装備はとてもじゃ無いが実用的では無かった。
なので、胸当てと小手だけの最低限の防具にする事にした。
「あれ?サラさんは、、、、居た。」
「サラさ、、」
サラは真剣な表情で、ショーケースに入ったローブを眺めていていた。それはフード付きのローブで、白い生地に赤い縁取りがされているシンプルなモノだが、どこか女性らしい可愛らしいデザインになっていた。
「それ、可愛いですね。」
後ろから声をかけると、ビクッとあからさまに驚いた反応をみせる。
「か、可愛いかどうかは知らないけど、マンドラゴラの樹皮を使ってるのよ。魔法耐性に優れてるんですって。、、、、それでアンタ防具は決まったの?」
「はいっ、お陰様で。」
「じゃあ、早く買ってきなさいよ。」
「サラさんは買わないんですか?」
サラも白いブラウスに膝下までの黒いスカート、王城で会ったと変わらぬ格好だった。特別、防具という印象は無い。
「ワタシは、天才魔法士よ。そんな防具が必要な状況になんてならないわ」
一瞬、間が空いた様に感じたが、変わらぬ様子で答えた。
「そういうもんですか?」
「そういうものよ。私は、用事があるから先に行くわよ。後は一人で大丈夫よね?」
「あっ、はい。ありがとうございました。」
「そっ。」
そう言うとサラは店から出ていった。
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