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「マンドラゴラの樹皮か、、、、。」
「あ、あの。」
僕はカウンター越しで作業をしている店主に声をかけた。
「なんだ。ボウズ?会計か? って、お、お前、目の色。」
店主は、物珍しそうに近寄って僕の顔を覗き込んでくる。
「あぁ、お前さんが例の。」
僕の事はあまり大っぴらにされていないはずだが、既にどこからかで情報が漏れ噂になっている事は城を出る前に聞いていた。
「あはは、すみません。」
「で、なんだ?」
わずかに驚いた素振りをした店主だったが、すぐに元の頑固そうな顔付きに戻っていた。
「あ、あの。これと同じくらいの短剣でもっと安いヤツとかってありますか?」
「なんだ、いきなり値引き交渉か?」
「い、いや、そういう訳では無いんですが、、ありせまんかね?」
銀貨3枚と銅貨5枚。
既にこの短剣自体かなりコストパフォーマンスが良いように見える。
店主は、腕を組んでこちら凝視する。
すごい眼力に押され、だんだんと小さく縮こまっていくしかなかった。昔、シャルナールさんとの言い付けを破り勝手に城外に出てこっぴどく叱られた時を思い出した。
「あるぞ。」
「そうですよね。ありませんよね。」
「え、?」
「今なんて」
「だからあるぞ。」
「ホントですか!?見せてもらえませんか。」
店主は一度、店の奥に入って行くとすぐに戻ってくるなり、「ほらよっ。」とカウンター越しから鞘付きの短剣を僕へ向かって放り投げる。
「あっ、え、おわっと。」なんとかキャッチに成功したが、これが抜き身だったら思うと冷や汗が出てきた。
改めて受け取ったソレを見ると、柄の部分には小さい魔法石が埋め込まれ、鞘を抜くとまるで鏡面の様な仕上がりの刀身だった。素人の僕でも分かる。これは高い。
「あ、あの、店主さん。僕は安いヤツをお願いしたはずなんですが、、、、、。これはちょっと上等過ぎる気が、、、、。」
すると、店主は目を見開き「オメェさん、それが上等だと思うのかい?」と質問してきた。
「え、はい。魔法石の良し悪しは良く分かりませんが、この刀身は見れば良いものだとは分かります。努力の後というか、、心が籠もってるというか。凄く丁寧に作られたんだと思います。」
そんな感想を口にしてから、店主は黙ってしまった。
素人のくせに、何を知ったような事を口にしてくれるんだ。とか、思われているのかも知れないと既に後悔し始めていたタイミングで、ようやく店主は口を開いた。
「それは、俺が鍛冶屋になる前に鍛えた剣だ。まだ素人に毛が生えた時の出来損ないだよ。オメェさんのいうような価値はそれには無いぜ。」
ああ、そんなんだ。
でも、目の前の男はもう50歳くらいはいっているだろうか。
そんな昔のモノを今も大事に手元に置いている時点できっと、この短剣はこの人にとっては価値のあるモノなんだろう。
「いえ、そんな事は無いと思います。あと、この剣の価値は僕が決めます。これは良いモノです。」
モノの価値は、必ずも一定では無いと僕は思う。
少なくとも、僕にはこの短剣が先ほどの短剣に劣っているとは微塵も思わない。
「そうかい。」
「はい、この短剣を僕にください。」
「・・・・・そう言ってくれるかい。良いぜ、ソイツはお前さんにやるよ。」
店主は、鼻先を掻きながら視線を反らす。
無愛想に見えていた店主だったが、微かに笑っていたように見えた。
「それで、、いくらで譲って頂けますか?」
僕は改めて店主に尋ねる。
「だから、お前さんにやるよ。」
「はい、なのでお金は、、。」
「だから、やるって言ってるだろう。代金はいらねぇ。持ってけ。」
「えっ。良いんですか!?というか頂けませんよ!こんな高価なモノ。」
「つべこべ言わずに受け取れ。俺の気が変わらん内に!その代わりに他商品は一切値引きしぇから覚悟しとけよ。」強めの語気で店主は放つ。
何度か店主と押し問答を続けたが、最終的に僕はその短剣を受け取るかたちになった。
「すみません。分かりました、有り難く頂戴します。」
「最初から素直にそう言えば良いだよ。全く。オメェさんのせいで無駄に体力使っちまったじゃねぇか。」
「すみません・・・。」
「別に謝らんでも良い。ほれ、防具も買うんだろ?こっちによこせ。」
「あ。はいっ。」
ガシャンとカウンターに防具を一式置く。
「あ、あと、すみません。これも一緒にお願いします。」
「ほぉ。」
店主は、僕を一瞥したがすぐに視線を戻した。
その後、支払いを済ませるのと合わせて店主から装備の仕方なども一通り教えてもらい僕は店を後にした。
金貨1枚。
ここでの支払いに掛かった費用だけれど、武器に防具も合わせてこの値段ならきっといい買い物をしたんだろう。相場なんて知らないけれど。
胸当てに小手、短剣を腰の後ろに装備した事により元々ぎこちなかった歩き方がよりいっそう拍車がかかる。マリオネットさながらの歩きで東門に向かった。
※※※※※※※※※
「だいぶ様になったじゃないか。」
東門にはオーレンが既に到着していた。王城の時には持っていなかった少し大きめな、それでいて邪魔にならい程度のポーチが腰の巻かれていた。その立ち姿はさすが歴戦の冒険者という感じで、いかにも旅慣れしている様に見えた。
「いえ、急ごしらえです。サラさんに指摘されるまで装備が頭から抜けていまして、、、。オーレンさんはいつからここに?待たせてしまいましたか?」
「ん?俺も今来たところだ。気にしなくていいぞ。それに、他の奴らもまだ来ていないしな。」
「そうですか。」
何だかんだで既に約束の三時間まであと少しというところまで時間は経過していた。
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