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第一章
目の前に眩しい光が広がっている。
川口紫乃は、手でそれを遮りながら顔をしかめた。
修学旅行の三日目は生徒の多くが楽しみにしているテーマパークでの自由時間だ。到着して先生の話を聞いた後、解散のかけ声とともに生徒たちはそれぞれ散らばって駆け出した。
取り残された紫乃はすぐ賑やかな声が嫌になって、静かな場所を求めて歩き出したのだ。
しかし、どの場所もうるさいと頭の中では気づいていた紫乃は、行く当てもなく歩き続けた。
少し前のほうを楽しそうに話しながら歩いているのが、クラスメイトの男子たちであることを紫乃はぼんやりと確認した。
ふと、驚きの声が聞こえて紫乃はビクッと肩をあげた。男子グループの数人が、話に混ざらなくなった清水維月という少年にくすぐりの悪戯を仕掛けたようだ。
「やめろよ!」
「まぁまぁ。せっかくの修学旅行なんだから楽しもうぜ?」
「そうだそうだ!」
しばらく呆然としていた維月が叫ぶと、男子は笑いながら維月をなだめる。
「お前ら何やってんだ、行くぞ」
「待てよー」
先に歩き進めていた男子が維月たちを呼ぶ声で、維月と一緒にいた男子は維月の腕を掴んで駆け出す。
「あ、ちょっ」
引っ張られていく維月がどことなく悔しそうに紫乃には見えた。
「清水くんたちは学校でも賑やかなグループだけど、ここでも変わらずだな」
維月たちが向かったほうを見ながら紫乃は呟く。
立ちつくしていた紫乃だが、通路の中央に植えられている街路樹の影であるものを見つけた。紫乃がそばに駆け寄って拾うと、それは維月の生徒手帳だった。
「これ、清水くんの……」
届けないといけないと思った紫乃はまた、維月たちが歩いて行ったほうを見る。しかし、人が多すぎて彼を見つけることができるか心配になった。そして、人の多さにめまいを覚えた紫乃は一度ベンチで休もうと歩き出した。
ようやく座れるベンチを見つけた紫乃は、ため息をついてそこに座る。
少し気の抜けた紫乃は普段の読書の癖で何気なく維月の生徒手帳のページをパラパラとめくっていた。
あるページを開いてから紫乃は我に返った。
「ひ、人の、勝手に見ちゃってた。というより、何これ?」
開かれたメモページは『壊れろ』という黒文字でぎっしりと埋め尽くされていた。残りのメモページが気になった紫乃は、それがいけないことだと思いながらも次のページをめくっていた。
「『テーマパーク放火計画』……?」
映画やドラマであるような計画の名前に、紫乃は目を疑った。読み進めていくと、それがあり得ることなのだと紫乃は理解した。
メモの文字を見て、17時までには維月を見つけないといけないと思った紫乃は鼓動が早くなっていくのを感じた。
紫乃は、維月の生徒手帳をスカートポケットにしまって駆け出していた。
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