プロローグ

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プロローグ

 放課後の校庭や昇降口には生徒たちの賑やかな声が響き出す。  誰もいない夕日の差し込む教室は静寂に包まれている。そんな教室で、少女はある人物と二人きりだった。 ある人物とは、少女にとっては双子の兄にあたる少年だ。 「なんだよ、家だとダメな話なのかよ?」  黙っている少女を急かすように、自分の席に座ってスマホをいじる兄が沈黙を破く。 「だって、家に帰っても話聞いてくれないでしょ」  少女は込み上げてくる涙を堪えて、少年に言う。 「部活やって帰ってくるから疲れんだよ。それに友達ともゲームで遊んでたいし」 「ねぇ。学校でずっと友達と笑って過ごしてるけど、本当に楽しい?」  少女の問いで、スマホを操作していた少年の手は止まった。それでも少年は少女と顔を合わせようとしない。  少年が貧乏ゆすりを始めて、机も小刻みに震える。 「どういう意味だよ?てか、それ本題じゃねぇだろ」  苛立(いらだ)つ少年の貧乏ゆすりが激しくなっていく。  少女は少年の様子に(ひる)み、思わず目を逸らしていた。 「えっと、修学旅行での放火計画を夜中に練っているの、気づいてたんだ」 「は?このこと、父さんたちに言ったのか?」  オドオドしている少女の言葉に、少年は目を丸くして立ち上がる。今にも掴みかかって来そうな少年に圧倒されて、少女は後ずさった。 「い、言ってないよ。わ、私が、そんなことできると思う?」  少女は何度も首を横に振りながら、少年を落ち着かせようとする。 「……確かに、話してたら父さんたちにもう止められてるはずだよな」  冷静になった少年は腕を組んで考え込む。 「じゃあ、お前一人で俺を止めに来たってわけか」 「一回言っても心変わりしそうにないっていうのは、ずっと一緒に過ごしてきたから分かるよ」 「修学旅行までもう日数がないってのに、そんな調子で止められるのかよ?」 「やっと止める決心がついたの!」  見下すように淡々と話す少年に少女は自分の出せる精一杯の声で叫び返す。しかし、少年への恐怖心が(まさ)ったようで少年は平然としている。 「止められるもんなら止めてみろよ。まぁ、お前には無理だろうけど」  何も言わずに震えている少女に、少年は呆れ顔だ。 「じゃあ、部活行く。友達と遊んでから帰るから遅くなるって、母さんに伝えといてよ」  少年はリュックを肩にかけながら、席を立つ。そして、黙って立ちつくす少女にひらひらと手を振って教室から出て行った。 「絶対、絶対止めてみせるんだから」  一人残された少女はあふれ出た涙で歪んだ床を見つめながら、両手を強く握った。  
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