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リカコの家に行こう
「そうだ」
将太がこう言うときは何か突拍子のないことを言うときだ。
「リカコの家に行こう」
「なんで?」
「善は急げだ!」
リカコというのは僕らと同じクラスの女子だ。誰に対しても親切な子で、最近は将太と僕と三人でよく一緒につるんでいる。今もちょっと話題にしていたばかり。でも突然家を訪ねるほどの関係ではないはずだ。アポなしで行くのはちょっと。
けれど将太は一直線。僕と将太は僕の家で遊んでいたのだが、思い立ったのだからとさっそうと玄関に向かう。それを僕は慌てて追った。
外はもう暗い。寒さの片りんを見せる大きな月の下で、将太を追いかける。
「もう夜だしさ」
「まだ大丈夫だろ、リカコんち親帰ってくるの遅いって言ってたし」
「でもこんな突然」
「先に連絡しろっていってもお前しないだろー」
説得しながら将太の横を歩くと、横を見ているせいでたまに足がもつれてしまう。将太はずんずん進む。歩みを止める素振りはない。
「でもタイミングってもんがあるじゃん」
「じゃあいつ言うんだ?」
「う」
鋭い言葉が胸をえぐる。そうだ、僕はきっと言い訳をし続けて、そのいつかはきっと来ない。
「だ、だけど今日じゃないと思う」
「ふーん、恭司はそういうシチュエーションを大事にする派っと」
「え?! いや、そこまでこだわりたいってわけじゃなくって、突然だと心の準備とかさ……」
「あ? 自分の気の持ちようじゃねーか。それなら大丈夫だな」
僕の説明に将太は余計に意思を固めたらしく、歩くスピードが速くなる。
「もしプランができてるなら止まってやってもよかったけどさ」
「将太っ!」
「あのな、言えるときに言わなきゃだめだ」
突然止まった将太が僕の背を叩く。いつの間にかもう、僕らはリカコの家の前についていた。
「もしかしたら明日、リカコにはもう会えないかもしれない。恋人ができるかも」
「……」
「それを知ったとき後悔しないか? 心残りにならないか?」
する。絶対に、僕は後悔する。
それを、将太はわかっているのだ。
「……」
「な、俺の二の舞になんなよ」
思いつきで俺を連れてきたようだったのに、その将太の言葉の裏にある強い意志にようやく気がついた。僕は覚悟を決めた。
「……サンキュ」
「じゃあな、結果報告待ってるぜ!」
力強く僕の背を押して将太は去って行く。僕はリカコの家の前に一人残された。三秒ゆっくり数えて深呼吸、それからインターホンに手を伸ばす。
ぴんぽん、と軽い音が鳴る。
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