「マヨネーズのオムレツ」

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「あっ、すみません。突然ですけど、この卵を使って何か作ってもらえませんか?」 市場の食材を見ていたら、声をかけられた。 振り返るとそこにはレポーターと思われる人と3台のテレビカメラ。 「いいですよ。料理は好きだし。」 「じゃあ、お願いします!」 3台のカメラまでがいっせいにお辞儀をした。 案内されたのは、とあるビルの一室にある簡易的なキッチン。 そうだな・・・卵か。 タビタはフライパンを取り出して火にかけた。 冷蔵庫からバターとマヨネーズ、パセリもみつけた。 卵をコンコン、ぱかっ。 「うん、いい色だ。」 バターをひいたフライパンをペーパーでひとなで。 そこへほぐしたたまごを流し込み、ちょっとだけゆすると すぐさまマヨネーズを絞り込む。 あとはさくさくっとフライ返しであらくまとめてお皿へ・・・。 「できました。マヨネーズのオムレツです。」 色鮮やかな黄色いオムレツにパセリの緑が美しい。 「じゃ、ぼくはこれで。」 「あっ、あの。お名前を・・・。」 「ぼくはキジシマ タビタ。お熱いうちに召し上がれ。」 あっけにとられたスタッフをあとにタビタは行ってしまった。 「レポート・・・する暇なかった・・・。」 「食レポ、しようか。」 レポーターの女の子はさっそくスプーンをいれた。 「ふわふわな卵で中はクリーミー、あっ、マヨネーズの香りがいいですね。」 食材はみんなキイロなのに、ちゃんと見分けられる。 「では、いただきます。」 ひとくち、運ぶ。 「なんだか・・・。」 女の子はうつむいた。 「懐かしい味がします。」 オムレツがぼんやりにじんで見えた。 「おかあさんの味がします。」 たった卵とマヨネーズだけなのに、それは温かくて柔らかい。 どこの家でも作るであろう家庭料理の味がした。 同じ食材を使っていても、食するひとの気持ちによって変化する。 シンプルな味わいは、見た目も香りも舌触りも、そして胃の腑に落ちた時も、 優しくて懐かしい想いを呼び起こした。 タビタは市場で食材を探している。 「これは新しい素材だな。何を作るか・・・。」 明日は違う町に行ってみるか。 ちいさな料理人、キジシマ タビタは今日も食材探しの旅にでる。
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