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「エコバッグ貸して」と出かけたしっぽは、エマ同様、近所のスーパーではなく一駅離れた輸入食材が豊富に揃う店に行き、カルダモンだのカイエンペッパーだの瓶詰めになったスパイスを六つも買ってきた。
どれもこれも俺だったら買わないやつ。カレー作った後、絶対余るし。余った先の使い途、全然わかんないし。
一緒に買い物した時、そう渋る俺に「また私が作りにくれば解決だね」と笑ったエマ。
それだけで俺は幸せだったのに、結局彼女はそれから数ヶ月もせずロン毛でヒゲで下北沢系の、サブカルどころかカウンターカルチャーも好きそうな、スパイスにだってめっちゃ詳しそうな男に惚れ、俺は部屋に残されたスパイスを泣きながら捨てたのだ。
しっぽが作ったカレーは美味かった。ていうかエマと同じ味。
カレーを作るしっぽの後ろ姿は不思議ななめらかさで部屋に馴染み、俺は俺で夢の中にいるみたいにそれを受けいれた。
まるでエマが帰ってきたみたいだ。カレーを食べ終わった後も彼女は当たり前のように俺の部屋で寛いでいる。
抑えきれないうれしさが込み上げる一方、拭えぬ不安も当然ある。感傷と理性は忙しくせめぎ合い「無理!いったん休憩!」と俺は風呂へ逃げ込んだのだ。
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