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湯につかってほぐれた頭が、とりとめもなく今日を反芻している。
とかげのしっぽが家に押しかけてくる。
何だこの状況。何かに似てる。あれか?鶴の恩返し。それとも人魚姫?
でも目的がわからない。正体を隠していた鶴や人魚と違ってしっぽは秒でネタバレしてきたし。マジで何だろう。あいつ何でうちにいるんだろう。
「高木くん、お風呂ながーい」
部屋に戻ればしっぽに笑いかけられる。
やっぱ可愛い。
エマそっくりのその笑顔についほだされそうになるけど、それじゃダメだ。
悩みすぎて風呂から出れず、しわしわにふやけた指をぎゅっと握り込んで俺は彼女の前に座った。
「あの、いつまでいるんですか」
「いつ?」
心底不思議そうに、しっぽが目をしばたたかせる。私、あなたの彼女だよ?ずっと一緒に決まってるじゃん。みたいな。
くそ、これが本当にエマだったらどんなにいいだろう。
「ごまかさないで。だって俺、わかんねえよ。なんで君、うちにいるの?」
「なんでって、それはぁ……」
「その喋り方もやめて。なんでエマに化けてるの?マジ何なの?」
「本当にやめていいの?」
「いいよ、ていうか」やめろよ、と続ける前にギュッと空気が尖る。エマの姿かたちのままなのにしっぽの、しっぽらしい気配が突き出してくる。
「それは身代わりだからですよ」
「身代わり?」
「ええ。しっぽは身代わり、でしょう?今際のとかげが命代わりに差し出す身代わり。私はとかげを失くしたから、あなたの求めるものの身代わりになってみようかと」
フフゥとしっぽが笑う。
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