邂逅

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 もしかしたらうまくいくんじゃないか。  とかげを失くしたしっぽとエマに胸焼けしていた俺。めんどくさい部分は取っ払ってお互い欲しいものだけ与え合う、いい関係になれるんじゃないか。  でもそれって本当にいいのか?  俺はエマが遠慮なく発する「自分をわからない奴は低俗」っていう傲慢な否定が嫌だっただけでエマの中身を変えたかったわけじゃない。  芯を愛せなかったから外側だけもらうなんて、なんかひどくないか。いや、それもありなのか?しっぽは身代わりとしてしか生きられないというなら、その生き方に乗っかってもいいのか?  顔を上げた俺にフフゥとしっぽが笑う。 「では高木さん、改めてよろしくお願いします」  契約めいた握手。しっぽが差し出す手を握ろうと俺も手を伸ばしかけた瞬間、インターホンが鳴った。 「阿部さん。大家の高橋です、阿部さん」  ドアの向こうで大家さんが叫んでいる。  今日は阿部さんか。  時計を見ると午後八時過ぎ、大体いつもと同じ時間だ。 「高木さん?」  首を傾げたしっぽに俺はうなずく。 「隣に住む大家さんなんだけど、一年くらい前から認知症になっちゃって。毎日アパートのどっかの部屋をランダムにピンポンしてくる」 「それは何のために?」 「理由はいろいろだけど、一番多いのは娘さんを探してる。大家さんは七十代で、娘さんは元気なら四十代くらいだと思うんだけど若い時に旦那さんもろとも事故で亡くなっちゃったらしい。大家さんはそれ以来、ずっとひとりでパレス高橋を経営してたけど、認知症になってからは娘がいないこととか、生きてたとしてももう四十代の大人だとか、そういうのわかんなくなっちゃってるっぽくて、娘さんが小さい頃にいた住人の名前を呼びながらああやってピンポンして探しに来ちゃうんだって管理会社の人が説明しに来た」 「それはおいたわしい」 「他に親族もいないらしくて、管理会社としても認知症だからアパート経営を退けなんて言えない立場だし穏便に見守ってほしいってさ。まあ、おかげで家賃は安くしてもらえてるけどね」  説明している間にも、玄関から「阿部さん、高橋です」と呼ぶ声は止まない。「はい、今開けます」と言いながら、「というわけで少しの間、静かにお願い」と俺はしーっと人差し指を立てた。
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