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プロローグ
深夜二時に鳴り響くインターホン。
やや間があって固くドアをたたく音がする。
「和田さん、大家の高橋です。和田さん」
かぼそいがよく通る女性の声が切羽詰まった様子で呼びかけてくる。めずらしい。今夜は二度目だ。眠い目を擦りながら俺は床に置きっぱなしのパーカーをパジャマ代わりのTシャツの上に引っかける。早く出ないと最初のときみたいに合鍵で中に入って来られてしまうから。
「和田さん、あの、うちの子お邪魔してないかしら。あの子ったらまだ帰ってこなくて」
「うちには来てませんけど」
当然のように玄関の中に入ってきた大家さんの白いひっつめ髪を見下ろしながら俺は続けるべき言葉を選ぶ。
下手なことを言えば何時間だって居座られてしまう。最悪、警察騒ぎにだってなるかもしれない。
「本当に?あの子、あなたが作ったプラモデルをとても気に入っていたから」
プラモデル。新しいパターンだ。
そもそもこんなものに規則性があるのかは知らないけど。
「あなた、あれを外から見える窓に飾っているでしょう。マユミったら興味津々で」
「ああ、あのプラモデルならマユミちゃんにあげましたよ。きっと今頃おうちで遊んでるんじゃないかな」
「あら、そうなの?」
「はい。一緒に行きましょう」
促してドアを開く。
大家さんの小さな背中は素直に外へ吐き出され、安いサンダルの俺の足が気づまりにそれに続く。
外にはふけきった夜が暗く重く広がっている。
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