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フランクリン宛に送られてくるファンレターは箱に詰めて仕舞いこみ、私は目を通していない。
これらは父が受け取るべきもので、私に宛てられたものではないからだ。他人宛の手紙を黙って読むのは気が引ける。
専属であるジェンキンスが一度開封し、中を確認しているというし、本当になにか対応しなくてはならないような事柄があれば、彼のほうから打診があるはずだという安心感もある。
当初はなにくれと世話を焼き、こまめに電話をくれていたものだが、やがて頻度は減り。最近はもっぱら手紙でのやり取りだ。
直接的な交流は減ったように思えるが、文章のみで伝え合うほうが心根を明かしやすいと感じるのは、私が偽りとはいえ文筆業をしているからなのだろうか。
ジェンキンス・マクスウェルは私にとって、嘘をつかなくてもよい人物で、偽りのない本当の私を明かせる唯一の相手。
突然両親の庇護を失い、世間を騒がせた鉄道事故の犠牲者の家族であることを隠し、母の親族を名乗る男たちに強盗のような真似をされ、逃げるように生家を去り、仕事が休みの日は引きこもって誰にも明かせない立場で執筆活動をしている。
影に隠れ闇に身を潜め、噂から、真実から、世間の目から、あらゆるものから身を隠し、ごまかして、嘘で塗り固めて、真実を隠すハーディ・ヘルマンの本当の姿を知っているのは、ジェンキンスだけ。
彼だけが、私を知っている。
私が私であることを、彼だけが知っている。
直接会うことを避けたジェンキンスには先見の明があったのか。
いや、大人である彼は、世間を知らない小娘が己に依存してしまう可能性を見越していたのかもしれない。
だってどうして好きにならずにいられるだろう。
父と同年齢とは思えないぐらい、彼の言葉は若々しい。
綴られる文字から伝わる実直さ、送った草案に対する指摘は鋭く、けれどこちらを否定しない言葉運びで伝えられるため、物語の質はあがる。
なにか困っていることはないか。職場環境や生活面での悩み。
年若い娘の独り暮らしを慮っての言葉の数々は、秘密を抱えた孤独な心に寄り添い、柔らかく包み、固まった気持ちを溶かしていく。
覆面作家であった父とも、紙面を介して作業することが多かったため、私とも同じ方式を採用させてほしいと乞われてのやり取りだが、会わないことで私の想いはよくない方向へ突き進んでしまったと思う。
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