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『北陸について書くレポートがあったじゃん。それを兄貴に話したら実際に行こうってことになって、無理やり連れてこられた』  俺が渋々訳を説明していく。すると、文の下に動物や人間のスタンプが並ぶ。そのどれもがバカにしたように笑った顔をしていた。こっちは嫌々行っているのに。俺はベッドの上にスマートフォンを投げた。そして、準備を再開する。カバンの中に財布や充電していたゲーム機を突っ込んでいると、ノックの音がする。 「おにぎり、買ってきたぞ」  ドアの隙間から腕が出てきて、その手には黒い三角形が握られている。俺が受け取ると、すぐにその手は引っ込んだ。表面のシールに大きく梅と書かれている。なんで梅買ってくるんだよ。腹が立ちベッドに投げつけようとするが、腹が鳴り手を止めた。袋を開け、渋りながらも食べていく。なにどうでもいいことでいらついているんだろう。反省しながらも梅干しの酸っぱさに顔をしかめる。こんな思いするのも、全部兄貴のせいだ。おにぎりの包装をゴミ箱に投げ入れ、カバンを持つ。何気なくスマートフォンを見ると、 『何がともあれ、楽しんでおいで』  と書かれていた。俺は返事を打ちながら部屋から出る。エレベーター前へ行くと、つばの広い帽子を被った兄貴がいた。 「お待たせ、早く行こう」  声をかけたそのとき、俺の右手からスマートフォンがすり抜ける。取り上げたのは兄貴だった。 「何するんだよ」  取り返そうとすると、兄貴は自分のリュックサックの中に俺のスマートフォンを入れる。その瞬間、俺の額には冷や汗が出た。 「お前、移動中ずっとケータイ見てるだろ。だから、没収」 「返せ。もし、なにかあったらどうするんだよ」  問いかけると、ポケットから携帯電話を取り出し見せつける。それは折り畳み式の古いデザインだった。呆然している俺を横目に兄貴はリュックサックを背負いなおし、エレベーターのボタンを押す。まもなく、エレベーターが来て乗り込んだ。  9階から下りていく中、兄貴は上にある階数の表示を見て待っている。一方、俺は大事なものを取られて落ち着かない。静かな空間と何もない手に息が上がる。そうだ、ゲーム機持っていたんだ。俺はカバンを開け、ゲーム機を取り出す。電源を入れた瞬間、手の中からゲーム機が消えた。
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