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「ゲーム機も没収だ」  そう言った兄貴の手にはゲーム機が握られている。俺は頭を掻きむしり顔を覆った。エレベーターが一階に着き、兄貴は出口へ行く。苛立っている俺に目線すら向けなかった。苛立っていることが馬鹿馬鹿しい。俺は覆っていた手を下ろし、ぼんやりとしたまま兄貴についていった。ホテルを出ると、太陽の日差しが刺さる。俺が手をかざすのに対し、兄貴はためらうことなく富山駅へ向かった。  駅は横に長く、隣には駅ビルが建っている。工事中なのか所々に重機が置かれていた。そして、駅の中央から大通りに向かって路面電車が走っている。 「これも路面電車なのか」  俺は思わず言葉が漏れた。その路面電車は白く、より直方体に近い形でレトロな雰囲気がない。タイヤも見えず、まるでロボットのナメクジが這っているようにみえる。俺が 眺めていると、兄貴は別方向を指差した。 「路面電車には乗らないぞ。俺たちが乗るのはあっちだ」  指し示した方を見ると、そこにはバスロータリーがあった。大型バスがロータリーを回りながら、出入りを繰り返している。駅前の交差点を渡り、それぞれバスの車体を見る。東京、名古屋、金沢と行く場所は様々である。前を歩く兄貴についていくが、一向に立ち止まる気配はない。大型バスを通り過ぎた後、兄貴は一台の赤いワゴン車の前で止まる。ワゴン車の扉から、中から添乗員の女性が出てきて声をかけてきた。 「こちらは市内を周るバスになります」  添乗員さんが俺たちを案内しながら微笑む。その目尻の皺は深く、ベテランの雰囲気が漂った。 「呉羽山というところに行きたいんですが」  兄貴は地図を見せながら、添乗員さんに話しかける。 「呉羽山の麓に資料館があり、そこなら停留所がありますよ」 「分かりました。よし、これに乗ろう」  兄貴が先にワゴン車に乗り込み、後を追う。俺が出口のすぐ後ろの席に座り、兄貴は通路を挟んだ隣に座った。他にも人が乗り込んでくると思いきや、中々人が入ってこない。しばらくして、添乗員さんが入ってきて扉を閉めた。ワゴン車は出発し、バスロータリーから出ていく。車内は三人が乗るには余るほど、広く席があった。 「本日はご利用ありがとうございます。今日はどちらからいらしたんですか」 「東京から、電車で13時間かけて」 「それはとても大変でしたでしょう」
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